見出し画像

卒業論文・修士論文のテーマの見つけ方/3つの要素の綱引き

佐藤です。卒業論文のテーマが見つからない。修士論文のテーマが見つからない。といった悩みが、全方向から聞こえてきます。ぼく自身も、試行錯誤していろいろ研究報告してきたものの、完成には至っていない。

ぼくは社会人を15年やってから大学院生になった、という(少なくとも日本では)ちょっと珍しい立場にあります。(ちょっと前まで高校生だった)学部生や、ストレートで進学したため、ちょっと前まで大学生だった大学院生よりも、よくも悪くも思考を言語化してきた経験があり、また、生きてきた年数分だけ(研究に役立つかどうかは別として、むしろ研究にとって有害になるかも知れないが)個性?や中身?があります。
研究テーマを見つけるとは、どういうことか。この問題を、プロパーの学者よりも、意識的に悩んでいるかも知れません。天才ではないし、最初から研究者としての思考スタイルがインストールされているわけじゃないから、あえてソトモノとして書けることがあるはずだ。と思って書きます。

研究論文のテーマを考えるとき、3つの要素のバランスを取るべきでしょう。3つとは、①対象・②主張・③方法です。

①対象は、「興味があること」です。入学する学部・学科を選んだり、選考を決めるときに、「これこれが好きだから」「勉強してみたい」という取っ掛かりになります。とりたてて②主張はないし、③方法なんかに興味はないが、それに触れること、関わりがあることができれば、それで悔いはない、というかたちで表れます。ぎゃくに、取り扱いたい①対象がないから困った、という話も多いです。
②主張は、「言いたいこと」です。つきつめれば、①対象が何であろうと、自分が思っていること、表現したいことがある。なんの話をしてても、そこに落ち着いちゃうぞ。たとえデータがなくて、研究として③方法が成り立たなくても、とにかく言いたいんだ、そう思うんだと。
③方法は、研究論文という形式を成り立たせられること。先行研究が多すぎず少なすぎず、批判できる範囲に限定し、角度を見つけ出す。調査可能、論証可能であり、客観的なエビデンスで言えるようにする。③に偏重すると、成果が出せるならば(卒業できる、査読に通りそうならば)、①対象にはこだわりはないし、データから説明しやすければ、③結論は何でもいいよという態度になるだろう。

①②③の綱引きです。二項対立の綱引きならば、直線的なせめぎあいなので、頭が混乱することは少ない。片方を立てれば、もう片方が立たない、さてどうしたものか。というのは、シンプルです。
しかし、三角形の頂点にそれぞれが立って、3方向から縄の結び目をめぐって引っ張ると、予測不能です。ひとによって、①②③の引っ張る力が違うから、三角形がぐにゃーって曲がります。1つの引き手がマッチョすぎて、ほか2人を地面に引きずり、明後日に方向に飛んでいくことも。どうしようもない駄文は、けっこう大学内に飛び交っているのでは。

①対象への熱意があるひとは、スタートダッシュを決めやすいが、好きな気持ちが強すぎて、「それってただの趣味ですよね」となる。坂本龍馬!新撰組!って連呼するだけじゃあ、まだ入り口なんすよ。これは、訓練によって伸びる部分ではない。視野を広くもち、いろいろな人と会って、いろいろな本を読んで……という指導も、空疎にひびきます。
②主張があるひとは、③方法をおざなりにしてしまうので、先生から戒められるでしょう。「ただの感想文だよね」で終わる。②主張は、わりと経験がものをいうと思います。酸いも甘いもかみ分けて……、みたいに、人生経験や思考遍歴が複雑だと、いいか悪いかは別として、持ち味みたいなものができる。いちおう、耳を傾けてもいいか、というスタート地点には立てるかも知れない。ただし、こじらせ過ぎると、「手遅れにつき、処置なし」となる。反面で、若いひとには不利。強く主張しているかと思いきや、だれかの劣化コピーだったりする。
③方法は、研究を成り立たせる基礎だから、絶対にきちんと身につけるべきだが、これに目が行きすぎると、①興味がないことを、②論文化しやすい結論ありきで、並べるだけになる。プロとしての割り切りは必要、なのかも知れないが、それは熟達してからでいいでしょう。
せまい見識の段階で、「研究っぽいことをしなくっちゃ」を真似るがあまり、①興味から目を背けてしまうかも知れない。結果として、熱意がない(ように見えていた)ことだってあるだろう。

めちゃくちゃ難しいけど、①興味がある題材で、②自分が言いたいと思っていることを、③研究のルールに則ってまとめる。これは理想論ですけど、自分が、3つのどの点で苦しんでいるか、を分析するのは、いいことだと思うんですよね。
①その題材で、②それを言うなら、むしろ③こういう問題設定、分析手法を使えばよい、という助言がもらえるかも知れない。②その主張をし、③研究として成り立たせるなら、①この題材を選んだほうがいいよ、というアドバイスがもらえるかも知れない。①その題材を使って、③研究として成り立たせるなら、むしろ②結論をこちらに変えては?という意見変更を促されるかも知れない。受けているアドバイスが、①②③どれに関わることなのか、ということが分かれば、メンタルの健康を保ちながら指導を受けられる。

複雑になるから書かなかったけれど、3つですべてが完結するわけじゃなくて、その外側には、④能力、という要素があると思います。①②③がかみ合ったとしても、それを実現する④能力がないなら、残念ながら諦めるか、鍛えて出直しでしょう。
さらに外側に、⑤環境、という要素があるだろう。自分を評価する先生がどんな考え・強みを持っているか。論文を投稿したとして、何が評価されるのか。①対象、②主張、③方法にまつわる、流行り廃りがあるだろう。派閥抗争や業界のクセがあるだろう。競合に勝つための戦略も考えなければいけない。
ライバルより相対的に優位な④能力を活かせるような、③方法を選ぶ。⑤評価を勝ち取るために、無二の、もしくはライバルを閉め出せる、あるいは生態系のなかで生き残りやすい①題材を選ぶ、②主張を変えるなど。そこまでいけたら、もう大学教授なので、とりあえず除外です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?