肘の角度(肘外偏角)が怪我のリスクとなるのか?

肘の靭帯への負荷にはピッチングフォームや練習量だけではなく、関節の角度や緩さなども関係しています。

同じような練習をしていても怪我をしやすい人とそうでない人とではこういった身体の構造も関係している可能性があります。


肘の角度と怪我の発生率

次の図のように肘外偏角(carrying angle)が怪我のリスクと関係しているという考え方があります。

これは男女によっても差があると言われていますが、特に野球選手はこの角度に変化が生じやすく、この角度が大きいほど怪我をしやすいと言われています。

とある研究によると怪我をした野球選手はこの肘の角度が大きくなっていたそうです1。

しかし、その一方でこの肘の角度が怪我の増加とは関係ない報告もあります2。


この2つの研究を比べてみると、角度が15°を超えていた研究では怪我が増えており、怪我とは関係がなかったとすると研究は角度が15°を下回っていました。

このようなことから一定程度の肘の角度の変化では怪我のリスクとはあまり関係なく、あるラインを超えると怪我のリスクが高まるのではないかと言えるのではないでしょうか。


肘関節の緩みと怪我の関係性について

肘の角度次第では、肘関節が緩みや関節の不安定さへとつながる可能性もあるかもしれません。

  • ある研究ではピッチャーの利き腕の肘関節は一般的に少し緩くなっている傾向があることが報告されています3。

  • 怪我をしていないピッチャーでも肘関節のスペースが一定程度緩くなっている傾向があり、これはピッチング動作の可動域に適応した結果である可能性も考えられています4。

  • しかし、この肘関節のスペースの緩みが一定のラインを超えてくると肘の靭帯断裂などとの関係性が出てくる傾向があるそうです5。

このように肘関節の緩みと怪我には何らかの関係があるかと思います。


肘外偏角の改善について

肘の角度が極端に大きすぎると肘の負担へとつながる可能性があるわけですが、これをマッサージやストレッチ、整体施術などで改善できるかというと微妙なところがあります。

過度なピッチングの繰り返しなどによって筋肉が硬くなって肘の角度が変化している場合には、肘周りの筋肉をほぐすことで肘の状態を改善させることができますが、

先天的な骨格によるものの場合には、マッサージや整体施術などを行っても肘の角度を改善するのに限界があります。

先天的な骨格による影響による場合には、前腕の筋肉を鍛えるなどして肘の負担を減らしていくことが役立ちます。


まとめ

肘の角度の多少の違いなどは怪我のリスクにそこまで関係しているわけではなく、著しい変化が生じている場合には注意が必要かもしれません。


<参考文献>

  1. Shah SS, Goldstein JA, Stein S, et al. Increased Valgus Carrying Angle at the Elbow correlates with Shoulder and Elbow injuries in Professional Pitchers: A Prospective Study. Orthopaedic Journal of Sports Medicine. 2017;5(7_suppl6):2325967117S00379.

  2. Erickson BJ, Chalmers PN, Zajac J, et al. Do Professional Baseball Players With a Higher Valgus Carrying Angle Have an Increased Risk of Shoulder and Elbow Injuries? Orthopaedic Journal of Sports Medicine. 2019;7(8):2325967119866734.

  3. Ellenbecker TS, Mattalino AJ, Elam EA, Caplinger RA. Medial elbow joint laxity in professional baseball pitchers. A bilateral comparison using stress radiography. Am J Sports Med. 1998;26(3):420-424.

  4. Minata T, Safran MR, McGarry MH, Abe M, Lee TQ. Elbow Valgus Laxity May Result in an Overestimation of Apparent Shoulder External Rotation during Physical Examination. Am J Sports Med. 2008;36(5):978-982.

  5. Rijke AM, Goitz HT, McCue FC, Andrews JR, Berr SS. Stress radiography of the medial elbow ligaments.Radiology. 1994;191(1):213-216.