筋膜リリースの効果について


筋膜リリースとは?

筋膜リリースは英語でMyofascial releaseなどと呼ばれ、小さな力を反復的に加えて筋膜を伸ばすことなどを目的とした手技の総称を言います1。

とはいえ様々な広告や雑誌、SNSを見ていると、筋膜リリースと言いながらただのストレッチではないか?、ただのマッサージではないか?と思うこともしばしばあります。

筋膜リリースの明確な定義というのは曖昧なもので、狭い範囲で言えば筋膜に効かせるもの、広い範囲で言えば身体をほぐす行為全般という印象です。

そもそも筋膜に効いているかどうか?というのは客観的に確認することは難しく、自称「筋膜リリース」となっているケースも珍しくありません。

筋膜リリースの効果

手技

拳や肘を使って、筋膜を沈み込ませるように力を加えて筋膜を伸ばしていく方法があります1。

他にも筋膜によって動きの制限がかかっている方向に、小さな力を加えて筋膜を伸ばし、緩めるという方法もあります2。

これらの手技は腰痛などの痛みを軽減させる効果があることが研究で明らかになっています1。

とはいえ具体的な方法は団体によって違ったりするので、厳密な筋膜リリースの定義には曖昧さが残ります。

フォームローラー

自分自身でできる筋膜リリースの方法として有名なものがフォームローラーを使った方法です。

丸い筒状のものに体重を乗せて、ぐりぐりと身体を前後左右に動かすことで身体をほぐしていくものです。

フォームローラーを使うことで可動域の向上や筋肉痛の抑制などの効果があることが報告されています3。

一方でフォームローラーに痛みを減らす効果があるという科学的根拠は乏しいのが現状のようです4。

筋膜のメカニズム

筋膜は簡単には伸びない

マッサージなどの手技で筋膜を伸ばすのは難しいという考えがあります5。

基本的に筋膜は丈夫な作りになっていて、例えば1.8cmの太さの筋膜を伸ばすのには数十キロの力が必要です6。

マッサージなどの小さな力ではこのような力を加えることが難しく、フォームローラーに筋膜を伸ばす効果があるという根拠は乏しいという論文もあります7。

筋膜リリースでは筋膜自体が伸びるようになるわけではなく、あくまで筋膜と周辺組織との癒着などがほぐれることで筋膜がスライドしやすくなり、結果的に柔軟性が改善されるという報告もあります8。

筋膜の痛覚神経

近年では腰の筋膜にも痛みに関わる神経が存在していることが明らかになり、これが原因不明の腰痛と関係しているのではないか?と議論が行われています9。

筋膜には筋肉の数倍もの密度の感覚神経があるという研究結果もあり10・11、筋膜は特定の種類の痛みを感じやすい可能性があることはわかってきています12・13。

そして実際に慢性的な腰痛を抱えている人の腰の筋膜を採取して解析したところ、筋膜の神経の構造に大きな異常は見当たらなかったという研究結果が報告されています14。

しかし、筋膜の神経の密度が高くとも筋膜の体積は小さく神経細胞の数が限られていることから、筋膜が痛みの感じ方に圧倒的な影響を及ぼす可能性にはまだまだ疑問が残ります。

筋膜の痛覚神経の働きが異常になり痛みを感じやすくなるという可能性も考えられますが、まだまだ研究数も少なく証明力が弱いのが現状ではないかと思います。

筋膜の質的変化

慢性的な腰痛に筋膜の構造の変化も関与しているのではないか?ということも注目されることがあります。

慢性的な腰痛を抱えている人達は腰の筋膜に炎症を起こし14、筋膜が硬く厚みが増している傾向にあり15、さらには筋膜が短くなっていることが報告されています16。

このような研究結果をみると筋膜が腰痛の原因だ、と思うかもしれませんが、他にも筋肉なども炎症を起こしますし、厚みが変化するというのは特別なことではありません。

筋肉や椎間板など人体の様々な組織に似たような現象が起こるわけでして、筋膜だけに限った特別な事象ではなく、痛みの原因と断言できるほどのものではないと思います。

筋膜リリースのメリット

集客ができる

ただの筋肉のもみほぐしというよりも、筋膜リリースといった方が何だか特別感があり、高い効果が得られる印象が生まれるかもしれません。

言葉が与える印象というのは想像以上であり、どんな言葉を使うかはとても大切なことです。筋膜リリースという言葉も少しずつ浸透し、筋膜リリースをやって欲しいというお客さんも少なからず見受けられます。

筋膜リリースを目玉商品にしている整体院なども目にすることがあります。

筋膜リリースが集客できる魅力的なワードになってきていると思います。

人体の不思議に対する説明ができる

筋膜という概念はこれまで科学で説明できなかった事象に対するひとつの答えとなる可能性があります。その点で筋膜という言葉は、シンプルでわかりやすい説明ができるコンセプトであるという強みがあります。

実は筋肉には膜があって、それが痛みの原因だったんですよと言われると思わず納得しそうになる不思議な説得力があります。

筋膜リリースのデメリット

検証が難しい

何を持って筋膜に効いているのか?というのは検証が難しいものがあります。

触診した時に〇〇の感触は筋膜由来のものだなんて言われることもありますが、触っただけでそれが筋膜であることを確認できる強い裏付けはありません。

多くの施術は筋膜だけでなく筋肉など他にも効果を及ぼすことが多く、筋膜との違いを明確に区別することは難しいです。私もお客さんから「この施術は筋膜に効いていますか?」と質問されることがあります。

筋膜の変化を確認する方法がないので実際のどのくらい筋膜に効果があるのかはわかりませんし、本当に検証したかったらエコー検査やMRIなどで細かく調べる必要があります。

実際に筋膜を検証するなんてことは現実的ではなく、「筋膜の状態が良くないですね〜」と好き放題言えてしまうという、客観性に弱いという欠点があります。

まとめ

筋膜リリースの効果には一定の科学的根拠があるものの、その定義や効果については曖昧な部分も多く、

現状では売り上げを伸ばすための便利なキャッチコピーという側面が強いのではないでしょうか。

<参考文献>

  1. Ajimsha MS, Al-Mudahka NR, Al-Madzhar JA. Effectiveness of myofascial release: systematic review of randomized controlled trials. J Bodyw Mov Ther. 2015 Jan;19(1):102-12. doi: 10.1016/j.jbmt.2014.06.001. Epub 2014 Jun 13. PMID: 25603749.

  2. Ajimsha MS, Chithra S, Thulasyammal RP. Effectiveness of myofascial release in the management of lateral epicondylitis in computer professionals. Arch Phys Med Rehabil. 2012 Apr;93(4):604-9. doi: 10.1016/j.apmr.2011.10.012. Epub 2012 Jan 10. PMID: 22236639.

  3. Cheatham SW, Kolber MJ, Cain M, Lee M. THE EFFECTS OF SELF-MYOFASCIAL RELEASE USING A FOAM ROLL OR ROLLER MASSAGER ON JOINT RANGE OF MOTION, MUSCLE RECOVERY, AND PERFORMANCE: A SYSTEMATIC REVIEW. Int J Sports Phys Ther. 2015 Nov;10(6):827-38. PMID: 26618062; PMCID: PMC4637917.

  4. Kalichman L, Ben David C. Effect of self-myofascial release on myofascial pain, muscle flexibility, and strength: A narrative review. J Bodyw Mov Ther. 2017 Apr;21(2):446-451. doi: 10.1016/j.jbmt.2016.11.006. Epub 2016 Nov 14. PMID: 28532889.

  5. Schleip R. Fascial plasticity – a new neurobiological explanation: Part 1. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2003;7(1):11-19.

  6. Threlkeld AJ. The effects of manual therapy on connective tissue. Phys Ther. 1992;72(12):893-902.

  7. Behm DG, Wilke J. Do Self-Myofascial Release Devices Release Myofascia? Rolling Mechanisms: A Narrative Review. Sports Med. 2019 Aug;49(8):1173-1181. doi: 10.1007/s40279-019-01149-y. PMID: 31256353.

  8. Krause F, Wilke J, Niederer D, Vogt L, Banzer W. Acute effects of foam rolling on passive stiffness, stretch sensation and fascial sliding: A randomized controlled trial. Hum Mov Sci. 2019;67:102514.

  9. Wilke J, Schleip R, Klingler W, Stecco C. The Lumbodorsal Fascia as a Potential Source of Low Back Pain: A Narrative Review. Biomed Res Int. 2017;2017:5349620. doi:10.1155/2017/5349620

  10. Tesarz J, Hoheisel U, Wiedenhöfer B, Mense S. Sensory innervation of the thoracolumbar fascia in rats and humans. Neuroscience. 2011;194:302-308. doi:10.1016/j.neuroscience.2011.07.066

  11. Barry CM, Kestell G, Gillan M, Haberberger RV, Gibbins IL. Sensory nerve fibers containing calcitonin gene-related peptide in gastrocnemius, latissimus dorsi and erector spinae muscles and thoracolumbar fascia in mice.Neuroscience. 2015;291:106-117. doi:10.1016/j.neuroscience.2015.01.062

  12. Schilder A, Magerl W, Klein T, Treede R-D. Assessment of pain quality reveals distinct differences between nociceptive innervation of low back fascia and muscle in humans. Pain Rep. 2018;3(3):e662. doi:10.1097/PR9.0000000000000662

  13. Schilder A, Hoheisel U, Magerl W, Benrath J, Klein T, Treede R-D. Sensory findings after stimulation of the thoracolumbar fascia with hypertonic saline suggest its contribution to low back pain. Pain. 2014;155(2):222-231. doi:10.1016/j.pain.2013.09.025

  14. Bednar DA, Orr FW, Simon GT. Observations on the pathomorphology of the thoracolumbar fascia in chronic mechanical back pain. A microscopic study. Spine (Phila Pa 1976). 1995;20(10):1161-1164. doi:10.1097/00007632-199505150-00010

  15. Langevin HM, Stevens-Tuttle D, Fox JR, et al. Ultrasound evidence of altered lumbar connective tissue structure in human subjects with chronic low back pain. BMC Musculoskelet Disord. 2009;10:151. doi:10.1186/1471-2474-10-151

  16. Ranger TA, Teichtahl AJ, Cicuttini FM, et al. Shorter Lumbar Paraspinal Fascia Is Associated With High Intensity Low Back Pain and Disability. Spine (Phila Pa 1976). 2016;41(8):E489-493. doi:10.1097/BRS.0000000000001276

  17. Benjamin M. The fascia of the limbs and back--a review. J Anat. 2009 Jan;214(1):1-18. doi: 10.1111/j.1469-7580.2008.01011.x. PMID: 19166469; PMCID: PMC2667913.