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読書感想文という名のラブレター『僕が夫に出会うまで』

読書感想文を書くのは何十年振りでしょう。学生時代に書いたと言うより書かされた記憶でしかありません。実は書籍に触れたのも久しぶりで、あと数年もすれば半世紀を迎える私の人生に、今年大きな転機となる出会いがありました。

人並みに恋愛をして結婚、出産、そして離婚までも経験してきました。世の中の理に特に不自由なく過ごしてきた私にとって、今まで知ることのなかった全く違う人生を歩んできた人との出会いに大きな感銘をうけたのです。

無関心故の無知だった過去を振り返るきっかけとなり、知らなかったとはいえ今まで気付かぬまま人を傷つけたことはなかっただろうか…。何故、社会の在り方に疑問を抱くこともなかったのだろうか…。今後の人生観までもが大きく変わることになりました。

その出会いとは『僕が夫に出会うまで』
七崎良輔さんの書かれたエッセイでした。

七崎さんはゲイであるご自身のありのままの心情を、それはとても赤裸々に執筆されています。素直で真っ直ぐに、時には燃え狂うような嫉妬に至るまで、すべて正直に書かれていてとても人間味のある文章で、自然と心へ響いてくるものでした。今までなにを思って、感じてきたのか、重みが辛く切なくもあり、時にはとても情熱的で熱くさせられたりと、七崎さんの紡ぐ言葉に吸い込まれていきました。

冒頭からぐっと引き込まれていきます。小学生の頃の思い出など、ほぼ曖昧な自分とは違って、まだ10歳にも満たない純粋な心にこんなにも鮮明で忘れられないような記憶を残していたのです。帰りの会での出来事です。消えてしまいたいとまで思ったと…。読んでいるだけで息がつまる思いでした。同時に酷く悲しいと感じたのは、教職員は正しい事をしたと思っていたことです。ひとりの少年の心にこんなにも深い大きな傷をつけてしまったというのに…。無知とは時に心の凶器になるのだと、小学2年生の辛い体験から学ばせてもらうことになるなんてあんまりです。普通かどうかなど問うべき事ではないのに…。
その後、男の子らしくと意識して過ごしていた少年ななぴぃを思うと、無理しなくていいよ…そのままでいいんだよ…と。もうすでに涙腺は崩壊していました。

今でこそLGBTへの理解が進み、多様性も認められてきましたが、私は、七崎さんに出会うまでLGBTと言葉は耳にしたことはあっても、意味までは理解していませんでした。残酷なことですが、自身に関係がないと知らなくても生きてこれてしまったという悲しい現実を突き付けられました。

知らぬ間に、更なる苦悩が七崎さんの人生には続いていました。中学生となり周りの男子と馴染めずに苦労している傍ら隠れていじめられたりと、辛い日々を過ごしていた中で、初めての恋のトキメキを感じます。今はご自身をゲイと認められてますが、当時のななぴぃには、同性の友人に対して初めて募る恋心にどれほどの戸惑いを感じたことでしょう。友情に反しての葛藤、心臓を鷲掴みされるような感情が伝わってきました。恋をする気持ちに性別は関係なく、どんどん引き込まれ、私の心は勝手に寄り添って七崎さんに同化しているかのような不思議な感覚を覚えました。

ナンバーワンにならなくてもいい〜♪
私はこれから先、このフレーズを聴く度に、七崎さんを想い涙腺を緩めてしまうことでしょう。

気づけば七崎さんの奔放さ故の発言や行動に度々笑わせられ、多感な思春期の恋に彼と同じく胸が張り裂けそうになり、初めて恋が結ばれた時には私の心も自然と満たされていました。

亮介さんに出会うまでのストーリーですから、それまでは出会いと別れを経験するのですが、七崎さんが常に相手に真剣に向き合っていたからこそ、私も一緒に辛い涙を流し、行く末を応援していました。あとがきでも触れていましたが、残念ながら全てを語り尽くすことは出来なかったようです。著書の3倍は書かれたと、後々お聞きする機会があり続編の出版を切に願っているのはおそらく私だけではないはずです。

著書の数あるエピソードの中では、100回のキスをおねだりするななぴぃが可愛いくて印象に残っています。そこに至るまでの流れがとても情熱的で私もドキドキしました。将来までも望み描いていましたが、ここで恋が成就しまっては困ります。亮介さんに出会う為の巡り合わせとはならなかったかもしれないので可哀想ではありましたが、七崎さんの切り替えの早さも潔くてホッとしました。

亮介さんとの出会った日の馴れ初めは残念ながらコミカライズ版にしか記されていないようですので未読の方がいらっしゃるのなら必見だと思います。つきづきよし先生がとても可愛いななぴぃを描いて下さっています。お二人の出会いのきっかけはさておき、それはそれは素敵な恋に落ちていく瞬間を垣間見させて頂きました。

出会ってから一年数ヶ月を経て、やっとお二人のお付き合いが始まった時はどれほど安堵したことでしょう、七崎さんの気持ちにずっと寄り添ってきたので、七崎さんの幸せが私の幸せと思えるくらいに感極まりました。

その後、理不尽極まりない事件もありましたが、それはまた別の機会に…。社会的にも大きな騒動になり兼ねない程の辛い思いをされた七崎さん。亮介さんがいてくれたことで救われ、心強く思えたのと同時に、温かな気持ちに私も包まれました。そして亮介さんからのプロポーズを経て結婚へと二人の人生が始まったところで物語は終わります…

気持ちはとても清々しく晴れやかな気分になり、今、自分に出来る事を考え、前向きに生きていこうと思える作品でした。

文庫本に加筆されたあとがきにもありましたが、夫夫の在り方は日々刻々と変わりつつあるようです。どこの家庭でもよくあることでしょう。離婚した私からすれば離れてみてから気付く事もあり関係はさまざまなのだと思います。

飲むと終電を逃してしまう奔放さなど、酔っ払いななぴぃを可愛いとさえ思ってしまいます。
傍から見ているからかもしれませんが、亮介さんにとってはたまったもんじゃないかもしれません…心中お察しします。ですが、おそらくは亮介さんの持ち前の器の大きなところで受け止めてもらえていることでしょう。
とても深いところで結ばれているお二人の絆は、はかりしれないからこそ愛おしいです。

ちょうど書き終えたのが、七崎さんが誕生日を迎えたということもあり、こちらでもお伝えしたいと思います。

お誕生日おめでとうございます!
生まれてきてくれてありがとうございます。
七崎さんが生をうけてこれまで歩んでこられたことすべてに感謝したいと思います。
七崎さんのお母様ありがとうございます。

『僕が夫に出会うまで』を執筆され、どれだけの方に勇気と希望を与えられたことでしょう。私はLBGT当事者ではないので、全てを理解する事は難しいですが、出来ることで微力なりとも力になりたいと思っています。七崎さんがありのままに綴ってくれたからこそ、心に強く訴えられるものがありました。誰よりも幸せになってもらいたいと願いつつ、今後のご活躍を末長く応援させて頂きたいと思います。

人生という名の旅はまだ終わらない…

追伸 私はお二人が歌うヘッドライトテールライトが大好きです(YouTubeより)

#読書の秋2021

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