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Born in the USA

ご存知ブルーススプリングスティーンの名曲。ごく普通の青年がアメリカの貧しい家に生まれたばっかりに悲惨な運命に巻き込まれていく。どう考えても反戦歌なのだが、サビのパワーゆえか馬鹿な政治家が愛国歌として選挙に利用しブルーススプリングスティーンの怒りを買っている。

確かに一体感がでて盛り上がるので時々カラオケで歌ったりもするのだが、片手を突き上げ酔いしれる友人達の顔を眺めるうちに、これは違う、そんなにおめでたい歌じゃない、と違和感に耐えられなくなった。以来、ものすごく適当にだが日本訳バージョンで歌っている。🎵兄貴はナムで戦った。彼女の元には写真しか残ってねえ。クソがぁ!ボーンインザUSA〜みたいな感じである。もちろんお通夜みたいな雰囲気になるが、私はこの歌の本当の意味をまだ知らない人に知ってもらいたいと思う。戦争が起きた時、巻き込まれるのはごく普通の生活を送っている私たちである。そして実際に何が私たちに起こるのか。この歌は本当によくその「現実」を教えてくれる。

最近ではさらにお通夜度が上がる「大日本帝国バージョン」も歌っている。🎵朝起きたら赤紙来たが、インクも足らずピンク色 なにがめでたい死にゆく道が ベニヤ仕立ての船に乗る ボーンインザ日本帝国…
みたいな感じである。戦争のことなど何も知らない私であるが、その時代に生まれた不運を呪った人がほとんどではなかろうかと思う。

近頃では悲しいことに「ボーンインザ・ガザ」「ボーンインザ・ウクライナ」イスラエル、ロシア、ミャンマー、北朝鮮、アフガニスタン…枚挙にいとまがないほどの紛争地域があり、いくらでも「ボーンインザ…」が発生している状況だ。争いの渦中にいる時、多くの人々は「自由」を奪われる。食料や物資、医療品も不足するし、最悪なことに思想の自由、生きる自由も奪われる。イランではヒジャブを被らなかった女性が地下鉄から引き摺り下ろされ脳死状態になるという事件があった。イランは現在戦時下ではないはずだが、女性の権利、宗教的な自由が奪われている。

どこに生まれるか。それは私も決められなかったはずだ。だがどういうふうに生きるか。それは決められる。自分で自分を縛らなければ、私は自由だ。当たり前と思ってきたそのことが、大いなる幸運であったことに気付く。

同じくブルーススプリングスティーンの曲で「Born to run(明日なき暴走)」という曲がある。こちらもかなりやけっぱちな雰囲気ではあるが、Born in the USAとは大きく違う点がある。主人公が自由なのだ。Born in the USAは不運な運命に翻弄され、やさぐれていく男の皮肉な運命だが、明日なき暴走の彼はバイク(たぶん)で突っ走るのも自由、街を出るのも自由、オネエちゃんとイチャつくのも自由なんである。心の中にはしこりのようなものが残るが、それでも疾走する。明日があろうとなかろうと…。

どこに生まれようと、どんな環境で暮らそうと「自分は自分だ」と生きるのはおそらく無理だ。むしろその状況に染まってしまったほうが楽だし、そうせざる場合も多いだろう。

そもそも私は双極性障害(躁鬱病)という病を背負っているので、本当の私?とか考えると全てが怪しくなってくる。〜に生まれて、というなら私は躁鬱病に生まれている。このおかげでなかなかスパイシーな人生だ。

皆それぞれが何らかの星のもとに生まれている。人生のすべてを選ぶことはどんなに幸運な状況に生まれても不可能だろう。バッドであるほどに舵を取る力が必要だ。
そして波を越えることこそが人生の意味なのかもしれない。運命に流され、時に抗い…人は皆そうやって生きていく。

Born in the…その勇ましい曲の中に運命への恨みつらみや皮肉が込められている。生きることは楽ではない。それでも生ある限りは生きていく。重い鎖をいつか断ち切ることを夢見て。

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