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たばこ屋のおばちゃんのこと その2

以前にも書いたが、うちの近所にはたばこ屋があって、かわいらしいおばちゃんが店番をしている。今時たばこ屋というのもめずらしいし、長続きしてほしくてオロナミンCを買ったりする。私たちが越してきた10年ほど前にはおばちゃんも元気で「ハマっ子は三年住めばハマっ子だから、あんたたちもすぐ慣れるよ」と言ってくれた。ハマっ子とはそんなものなのだ。おばちゃんは年の功だけあって時折り名言を吐く。雪が降った日、「雪の翌日は裸で洗濯」と言っていた。雪の翌日はピーカンになることが多いらしい。「日がみじかくなるのも伸びるのも畳の目ひとつずつのようにゆっくりだ」とも言っていた。私はおばちゃんが教えてくれる四季折々の風情を楽しんでいた。

ところがある日、たばこ屋の前を通りかかったら、おばちゃんがどよんとしていて声がかけられる雰囲気ではなかった。これは何でも無神経に聞くことのできる旦那を派遣するしかない。かえってきた旦那によると、うっかりカウンターに置いていたお財布を近所の中学生に盗まれたらしい。なんたることだ!私は怒りに燃えたが、おばちゃんは犯人の目星がだいたいついているようだった。そもそも財布を置きっぱなしにしたのが悪いし、小さい頃から駄菓子を買いに来ていた子を罪に問いたくはない。おばちゃんの意思は固く、私はどこのどいつだと思っていたけどついぞわからなかった。

おばちゃんも80代後半となり、健康状態が心配だ。最近は暗くなってから店の前を通ると「こんな時間じゃオバケがでるよ」と「うらめしや〜」と幽霊の真似をする。「なんだかリアルだからやめて」と言うのだが、気に入っているらしくやめない。思えばおばちゃんとの付き合いも長くなった。まだまだおばちゃんに教えてほしいことがたくさんある。私はお年寄りと暮らしたことがないので。お年寄りは苦手だと思っていた。だがおばちゃんは可愛い。人は結局、生涯その人であると言うことなのだろう。私もトンチの効いた面白いおばあちゃんになりたい。日々これ修行である。

#たばこ屋のおばちゃん
#創作大賞2024
#エッセイ部門

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