介護現場における対応困難事例

事例
80代、女性のAさんは、在宅酸素療法で鼻カニューレをつけ、日中は点滴、現在感染対応のため居室隔離中である。
 転倒リスクが非常に高く、これまでに何度も転んであちこちに打撲の痕があり、先日は転んで前歯を折っている。本人はとにかくトイレに行きたいと訴え、酷いときには10分おきにトイレのために起き上がり、一日におよそ20〜30回はトイレに行く。
 歩行補助具は本人が忘れていってしまうからという理由で使用していない。転倒への対策として、センサーマット、それからポータブルトイレを導入したものの、昼夜センサー頻回、本人はポータブルより実際のトイレの方に行きたがる。
 認知はすすんでいて、30分前のことも憶えていない。耳は遠く、大声を出してもなかなか伝わらない。文字で伝えようとしても、目がよく見えないと言う。コミュニケーションがそもそも難しい。

検討、考察
Aさんは歩けるほどにはADLは保たれており、しかし歩行不安定で転倒リスクが非常に高い。さらに、尿意切迫感が非常に強く、それが頻回へのトイレにつながっている。さらに、酸素のルートや日中は点滴をしていることから、ルート類が脚にからんだりして転倒の危険はいっそう高くなっている。センサーマットやポータブルトイレは、かえって介護者の負担を増やしただけであまり効果がないように見える。

こういう転倒リスクの高い方が、夜間いっこうに寝る気配がない場合、ほかの仕事がまったく手につかないわけだから、ふつうなら車椅子にのせて連れ回すという方法もある。しかしAさんの場合は、在宅酸素をやっている上に感染対応で居室から外へ出すことができない
 他にできる方法として、とにかくトイレに行く頻度を減らしたいので、ベッド上でできるだけ起き上がりにくくする方法も考えられる。下肢を挙上して、L字柵を閉じて、センサーマットとポータブルトイレの位置を足元側にずらす。それでも起き上がろうとするだろうが、時間を稼ぐことができるかもしれない。この場合、ベッド柵を乗り越えて転落することがないように注意が必要である。

これら以外にも、転倒の原因になっている「とにかくトイレに行かせてほしい」という尿意切迫感については何かアプローチできないのか? たとえば、薬物療法でなんとかする、あるいはリハビリテーションで尿意を我慢するようにならないのか。このあたりが課題であると感じる。

感想
あまり口にはできないけれど、現場の本音としては「こういう人はもっとADLが落ちて寝たきりになってほしい」というのが正直なところです。この人の対応だけに追われて、他の入居者の対応が後回しになったり、まったく手につかなくなるわけで、介護者のストレスはかなり強いものがあります

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?