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自衛隊と小銃射撃について

前回の記事では、銃と社会の問題についてふれた。今回は、わたしが以前関わっていた仕事と銃との関わりについて記してみたい。
 具体的にいうと、陸上自衛隊の小火器射撃検定についてである。

自衛隊では、すべての隊員が個人に貸与される武器に習熟することが求められる。とくに基本となるものが、小銃(軍用のライフル銃)である。
 入隊した自衛官はまず、小銃の分解と結合について教わる。それを通して銃の仕組みや構造を学ぶのである。
 それから、射撃予習というものを繰り返し行う。これは、実際に実弾を撃つ前に、そのために安全管理上必要な動作を身につけるため、繰り返し行うことで体に叩き込むのである。
 射撃は、経験のない人に説明するのは難しいのだけれども、照門と照星の重なる延長線上に的を捉えて、引き金をひく。それも、射撃の姿勢が不安定だと、銃身がぶれて弾も当たらない。だから、射撃姿勢の堅確性が大事で、“骨で骨を支える”イメージである。撃つときには、引き金を引くというよりも、“引き金を絞る”感じである。
 そして最後に、小火器射撃検定というものがある。200メートルないし300メートルの距離から、静止目標に対して実弾射撃をおこない、点数を競う。もちろん、銃にスコープなんて付けない。
 ちなみに、アメリカ海兵隊の新兵は、500メートルの距離から射撃を行うときいたことがある。

陸上自衛隊という組織は、そこまでミリミリした厳格な組織とは思っていないけれども、ことに武器の扱いに関しては厳しい。射場では、文字どおりに一挙手一投足が厳密に統制され、ちょっとした不注意すら許されない。
 そこで射場指揮官の号令が飛ぶ。
「○射群、安全装置、弾込めっ」 これにより、安全装置を確認し銃に弾倉を装着する。
「姿勢点検はじめっ」 安定した姿勢で射撃ができるか、射撃姿勢を確認する。
「右方よーし、左方よーし、射撃用意、撃てっ」の号令で、引き金に指をかけて撃発する。
「撃ち方止めっ。安全装置、弾抜け安全点検っ」 これにより、安全装置を確認しこう稈を引いて、薬室から弾が除去されているか点検をうける。
 この後は、クリック修正といって、照準の修正を必要に応じて行う。それから再び、つぎの射撃にうつる。実際には、もっと細々とした号令が合間に飛ぶのだけれども、これが一連の実施要領となる。

いま振り返ってみて、当時の自衛隊の射撃検定や訓練のあり方には問題もあったと思っている。
 たとえば、静止した目標を狙うのみで、動いてる目標を撃つ訓練はやらない。当たり前の話だが、敵が攻めてくるときには“かかし”みたいにぼーっと突っ立っているわけではない。敵もまた、射撃をしながら、身をかがめて前進してくるはずである。そういう動いてる目標に対する射撃訓練も必要だったと思う。
 また、近距離での射撃訓練も重要だ。市街地や密林が戦場となる可能性は高いので、そうなると数メートル〜数十メートルの距離で交戦することになる。米軍の動画をYou Tubeなんかで見てみると、けっこう近接射撃を重視しているようにみえる。
 わたしが部隊にいたのは2006〜10年のことであり、その後も予備自や即応予備自をやったりしていたこともあるけれども、いまはもう少し訓練のあり方も進歩しているのだろうか?

あと、もっと重要なこととして、弾薬の備蓄を平時からしっかりしておくべきだということ。いざ戦争になったら、自分たちが思ってる以上に何倍も弾数を消費することになる。いまのウクライナ戦争をみても分かる通り、途方もない数量の砲弾を日々消費しているように見える。ハイテク兵器だなんだといわれていても、21世紀に実際に行われている戦争は従来型のものである。
 日本の軍隊は、歴史的にみて補給軽視=兵站軽視といわれているので、この点はよくよく考えて準備をしておくべきだと思う。