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片目をつぶって見る

今日のおすすめの一冊は、田口佳史(よしふみ)氏の『超訳 言志四録 佐藤一斎の「自分に火をつける」言葉』(三笠書房)です。その中から「春風駘蕩、秋霜烈日」という題でブログを書きました。

本書の中に「片目をつぶって見る」という心に響く文章がありました。

《ちょっとくらいの悪さはおめこぼしせよ》 

一斎は非常に厳しい人ですが、なかなか話のわかる人でもあります。『言志録 七四』を読むと、それがわかります。 

《治安日(ちあんび)に久しければ、楽時漸(らくじようや)く多きは、勢然(いきおいしか)るなり。 勢の趣(おもむ)く所は即ち天なり。士女聚(しじょあつま)り權(よろこ)びて、飲讌歌舞(いんえんかぶ)するが如(ごと)き、在在(ざいざい)に之(こ)れ有り。固(もと)より得て禁止す可からず。》 

世の中が長く平穏無事であるときは、どうしたって楽しみ事が多くなる。それは天のはからいなのだから、みんなが浮かれ気分で酒盛りをしたり、歌ったり、踊ったり してもいいじゃないか。止めてはいけないよ

 何となく、一斎なら「世の中が平和ボケしているときほど、一生懸命がんばらないといけないよ」と言いそうですが、まったく逆です。 

どうして浮かれ気分に水を差してはいけないのでしょうか。 

続くくだりで、「而(しか)るを乃(すなわ)ち強いて之を禁じなば、則(すなわ)ち人気抑鬱(よくうつ)して、発洩(はつえい)する所(ところ)無く、必ず伏して邪慝(じゃとく)と為(な)り蔵(かく)れて凶姦(きょうかん)と為り、或は結ばれて疾病毒瘡(しっちんどくそう)と為り其の害殊(まこと)に甚(はなはだ)しからん」と言っています。 

楽しみ事をむりやりやめさせたら、ストレスを発散するところがなくなり、気力が減退する、というんですね。 さらに悪いことに、楽しみ事をこそこそと隠れてやるようになり、それが重なれば逆に悪い方向にどんどんエスカレートしていく。そう指摘しています。大っぴらにやらせておいたほうが、むしろ健全だというわけです。 

むやみに禁じたばかりに、反発心から「もっと遊んでやれ」となったり、「バレなきゃ、何やってもいいだろう」みたいな気持ちになったりするのはよくあること。 子どもだって、親が厳し過ぎると、その反動で不良化しやすいでしょう? 大人だって同じです。 

隠れてやることがカラオケくらいなら何てことありませんが、たとえば仕事をさぼ ってギャンブルにのめり込むとか、遊ぶ金欲しさに会社の金を着服するとか、悪事に発展したら非常にやっかいです。 

こういう配慮を、江戸時代は「おめこぼし」と言いました。状況に応じて「これくらいならいいか」と斟酌(しんしゃく)し、多少のことは見て見ぬふりをしてあげるということです。 このくだりは、次の言葉で締めくくられています。 

《政(まつりごと)を為す者但(た)だ当(まさ)に人情を斟酌して、之が操縦を為し、之を禁不禁(きんふきん)の間に置き、 其(そ)れをして過甚(かじん)に至らざらしむべし。是れも亦時(またとき)に赴(おもむ)くの政然(しか)りと為す。》

ようするに、人情を斟酌する。いい言葉ですね。それによって人心をうまく操り、「禁止するでもなく、禁止しないでもない」状態にしておく。 社会の状況に順応しながら、一方に偏(かたよ)り過ぎないように注意するのがリーダーの役目だ、としています。 

リーダーのみなさんはぜひ、杓子定規な考えに囚われず、世の中が浮かれている状況のときは、部下たちにその空気を楽しませてあげてください。

◆これは、なにもリーダーだけでなく、家庭での親の立場でも同じだ。

結婚式でよく聞くスピーチがある。 「結婚前は両目をしっかりあけ、結婚したら片目をつぶって見る」 という言葉だ。 これは、なにも結婚だけの話ではなく、人間関係全般に言えること。 本当は、「片目はつぶり、もう一つの片目は薄目でボーッとみる」くらいでちょうどいい。

人に完璧を求めれば苦しくなるだけだ。 長い人生においては、間違いをおかすこともある。だからこそ、「許し」が必要なのだ。

「片目をつぶって見る」という言葉を胸に刻みたい。 

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