溜め込んだ洗濯物と僕

車の後部座席に積まれた乾かす前の洗濯物。
これが僕の精一杯の抵抗。


何もする気が起きなくて溜め込んだ洗濯物。
一人暮らしだから頻繁に洗濯しなければいけない程ではないものの、週2回のペースが理想。
けれど最近は何もする気が起きなくて1週間溜め込んでしまう。
意を決して回しても、その後はやっぱり気力が起きず洗濯機に入ったまま忘れ去られていく洗濯物。

そんな散々な扱いを受けている洗濯物に僕は今日 助けられた。


ずっと見たくなかった事があった。
受け入れたくない現実があった。
でもいつかはそれと向き合わなければいけない そう思って、僕は今日 車に乗り込んだ。

僕と安心を繋ぎ止める数少ない物をかき集めて。

これを手放せば終わり。
そう分かっていたからずっと手元から離せなかったもの。段々と本棚の中で埃を被っていくのを分かっていて、見て見ぬふりをしていたもの。それを適当な紙袋に入れる時 心に穴が空いた気がした。ずっとつぎはぎにして無理やり止めていた穴がついに開いた気がした。

それだけを持って車に乗り込めば、きっと僕は耐えきれなかっただろう。そう気付いていたからなのか 僕はずっと洗濯機の中に放置していた洗濯物を再び洗い 洗濯機が止まるやいなやカゴに放り入れ、それを後部座席に乗せて車を走らせた。

片道1時間程度のドライブ。
これから目の前に現れるであろう受け入れたくない事実に向かって進む1時間は意外とあっという間だった。 もしかすると走馬灯も思いのほか一瞬で過ぎ去るのかもしれない。

心の準備が出来ないままに向かい合った現実は僕の後ろ髪を強く引いた。何度だってこのまま今までのように先延ばしにして、気付かないふりをして、見なかったことにしてしまいたいと思った。

そんな時 ルームミラーに洗濯物を詰め込まれたカゴが映った。
「あぁ そうだ。僕はこれを持ってコインランドリーに行かないと。」
やらなければいけない事を思い出した。

溜め込んだ洗濯物のお陰で、約半年くらい ずっと見たくなかった現実を直視して、きちんと受け入れる事が出来た。

僕は今コインランドリーの駐車場でカップラーメンを啜っている。
何の面白みも無い現実。明日は金曜日。十年に一度とやらの寒波を全身に感じながら朝を迎えて 人のような暮らしを強いられる。

華も無い、刺激も無い、安心も居ない。

そんな日々がもうすぐ僕を迎えに来る。

それでもいいんだ。自分で決めた事だから。
僕の為に。僕を少しだけ良い方向に変えてくれた安心の為に。これでいいんだ。
そう思うと少しだけ前向きになれる気がした。

もう随分と前にコインランドリーの中の乾燥機は止まって僕を待っている。

迎えに行かないと。
ずっと見たくなかった現実と向き合う為に用意した僕の精一杯の抵抗を。
1週間溜め込んだ洗濯物を。

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