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リヴァプール戦 収穫と課題 〜今後への明るい光〜

昨シーズンのチャンピオンにアウェイで引き分け、という結果自体は素晴らしい。前半はほぼ完璧にプランを遂行できたのではないかと思える内容だった。一方で課題も見えた後半。防戦一方になったときに前方に進出するアイディアには乏しいように思われた。

↑攻撃時

↑守備時
 

 前半

アンチェロッティからすれば“してやったり”な前半であったように思う。スタメン発表の時は3バックでは?という声もちらほらあったが、今シーズン攻撃時は実質的に3バックであったので要するに起用する本職CBの枚数が変わったのだろうな、ということは容易に想像できた。試合が始まってみるとやはりその通りで攻撃時は3-5-2、守備時は4-4-2と布陣自体はいつもとなんら変わらないものであった。変わったのは明確な意図に基づいた人選であった。

 人選面においてはまず、カジェホンを下げてディ・ロレンツォを右サイドに置いた。これはロバートソンのマークという単なる守備強化の目的だけに留まらない。リヴァプールのように嵐のようなプレスをかけてくるチームに対してディ・ロレンツォの高さを活かし、プレスの“逃げ道”を作る目的があった。後半は特に顕著だったが、メレトのタッチライン際へのボールをそこに張った空中戦に強いディ・ロレンツォが落とし、セカンドボールを拾う、という形が何度も見られた。今後もプレッシングに長けたチームとの対戦の際は重要な手段となるだろう。また、本職のCBを3枚並べることで、空中戦において格段に優位に立った。特にサディオ・マネに対してはほぼ何もさせず、一方的にフラストレーションを貯めさせることに成功した。マノラスの復活も相まって、前半の守備は非常に上手く行った。トップのブラジル人の変態的なポストプレイ以外は決定機らしい決定機は作らせなかったように見えた。

 ツートップの頑張りも並大抵ではなかったように思う。メルテンスは相手の中盤のプレイヤーをしつこく監視し、アラン、ロサーノと共に自陣におけるプレスのスイッチ役を担った。ゴールシーンに運は付き物だが、守備の安定が先制ゴールの重要性を一層引き立てたことは言うまでもない。

 ファビーニョの負傷退場も本当に大きかった(不謹慎)。第一戦では降りてきたフィルミーノとの縦のラインに苦戦し、誰がみるのか不明瞭になった部分も多く、結果的にアランが相当きつい仕事を強いられることとなった。代わりに入ったワイナルドゥムはアンカータイプではないし、ヘンダーソンの出来もイマイチだったので幾分楽に守備をすることができた。
 
 相手の人選についてもう一つ付け加えておくと、ジョー・ゴメスの攻撃時の出来がイマイチだったことも幸いした。上がりが遅い場面や、精度の伴わないクロス(この日に関してはアーノルドも然り)により外のレーンに誘導して失点するリスクの低い選択をさせることができた。

 攻撃に関しては至って単純で、奪ったらメルテンス、ロサーノへの裏に向けたパスが主だった。最近素晴らしいパフォーマンスを見せているメキシコ人は加速力とテクニックを生かしたプレスと裏抜けを狙ったし、先制シーンもメルテンスに対するこの狙いから生まれた。相手のミスによりいい位置で2度ほどボールを奪った際はコンビネーションが上手くいかなかったが、カウンターに関しては次回以降期待を抱かせてくれる内容だったように思う。

 ただし、私自身後半もこれを続けることに対してはかなり不安を抱いていた。というのも、これだけチャレンジ&カバーを続けていると、体力の消耗も半端なものではない。特にアランやメルテンス、ロサーノはおそらく持たないだろうな、というのは明らかだった。後半アンチェロッティがどのようなプランで来るのか気にしつつ、望外のリードに胸を躍らせてハーフタイムを迎えた。

後半

 悪い予想が当たり、後半に入ると流れは一変。攻撃に意識を高めたホームチームがナポリを押し込むことになった。

 クロップはジョー・ゴメスに代えてチェンバレンを投入し、ヘンダーソンを右サイドバックに回した。ジョー・ゴメスが攻撃面ではほとんど存在感を放つことができず、これにおそらく不満を持った彼はよりインテンシティが高く、柔軟にプレーできるヘンダーソンをサイドに向かわせた。

 リバプールはサイド攻撃を基調とし、敵陣深くではウイングとサイドバックのコンビネーションで崩しを完遂する。そして、ボールを預かったら基本クロスを徹底。ナポリの中央のレーンは堅いため、完全にこの手法にシフトして同点、逆転を狙った。

 押し込まれ続けたナポリは遂にCKから失点してしまう。ここから先勢いに乗ったリヴァプールはもの凄い圧のプレスをかけてくることが予想され、私は引き分けで御の字だな、と覚悟を決めた。

 同点に追いつかれて以降は、疲労の影響も大きく、ナポリのインテンシティは前半と比べ明らかに落ちた。中盤への楔のパスへの対応が遅くなり、そこを突かれては深い位置まで押し込まれ続けた。やはりプレミア勢はタフだ。この戦い方には限界があることを改めて痛感させられた。

 リバプールの馬鹿の一つ覚えのクロスには最強の守備者クリバリと見事に復活を果たしたマノラスの両CBが幾度となく対応し、メレトも得意のハイボール処理で相手に決定機だけは与えない。しかし、セカンドボールを拾われるため、攻撃のための守備ではなく耐えている(戸田さん)印象だった。

 ナポリはジョレンテ、エルマス、ユネスをいずれも披露しているメルテンス、ロサーノ、ジエリンスキに変えて、事態の好転を図った。ジョレンテのポストプレイを生かしてドリブラーのユネス、エルマスが打開する、という意図があったのだろうがこれが全く上手くいかない。ジョレンテはファン・ダイクを前に競り負けとポールロストを繰り返し、エルマスもユネスもうまく試合に入れない。

 それでも耐えた。耐え切った。試合はそのまま1-1で終了。最後はなんとしても勝点1を取りに行きたい魂胆が見え見えだったがそれでもいい。欧州で1番のチームに唯一の土をつけ、過酷なアウェイでも力強く戦い抜いたスカイブルーのイレブンをたたえたい。

 そしてアンチェロッティに謝りたい。戦術はあって戦略がないだの、個の力を信じすぎだの、散々こき下ろしてしまったが、やはり名将。中央を固めればリヴァプールの攻撃はそれほど怖くはないことを看破し、前半はある程度のビルドアップの改善も果たした。後半のプランはうまくいかなかったが、今日の出来は6戦勝っていないチームが見せるような代物ではなかった。

 このチームはまだ強くなれる。出遅れたリーグ戦も、CLも、引いた相手へのポゼッションをさらに磨き、柔軟な戦い方を身につければ来年の優勝も、今年のベスト8進出も夢ではない。

 ナポリは去年のトッテナムのようにになれると思っている。心からそう思う。自分達の戦い方ではなく、相手に“合わせる”。そんなチームがヨーロッパで覇権を握るようになればいいな、としみじみ願う。このチームはまだまだ成長できる。そう確信させてくれる、本当に大切な一戦であった。

 最後まで読んでくださりありがとうございました。(この項・了)