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病木 わくらぎ

いつもなら、虫の声が無いのを聴けていたはず。しかし今年は、気付けばもう冷たい空気が鼻の奥まで入ってくる。山の色は既にモノトーンだった。

12年育てていた栃ノ木ね、今年は夏に突然葉が枯れたでしょう?

よく見れば枝はかさかさ、もうすっかり枯れていた。毎日変わらず庭にすっくと立っていたのに、こんなに既に蝕まれ、もう死んでしまっていたなんて。

それは誰も彼もがそうでしょう?

「MRIで総腸骨動脈周囲リンパ節はすでに大きく腫れている。前立腺癌、手術はすぐには無理でしょう。まずは抗がん剤と放射線治療かな。」

彼はそう告げられたと
生死を僕に教えてくれた。
それで僕は今日
階段を二段飛びに駆け上がって
景気をつけろ!
僕にも明日は無いけれど
でも、まだ宣告されていない
僕が取り敢えずはがんばるよ

生まれつき
手に触れるものしか
分からないから
すべては隠喩の中だった