『晩夏』 三十首

H27年の歌壇賞の応募作品三十首。結果は予選落ち。探していたら見つかったのでここでお弔いしますね。(詠んだ時期:H26.7.30~8.10)


こんなにも明るい朝に向こうではどんな一日が始まるのだろう

夜の間に鳥の巣ふたつ壊れたと港があるという街のこと

誘われて一緒に来たね優しい子夕陽も虹も海も砂漠も

らんちゅうの養殖業者は弔った一匹ごとに線香を立て

ほんとうのことはだれにもわからない鏡の部屋のすみっこで泣く

友だちってともだちだよねお祭りや花火やキャンプ西瓜割りして

玉きはる命のたいせつさよりも一人ぼっちの意味が知りたい

たいせつな物だからこそ所有するパラドックスに堕ちたたましい

片想いだった気がする純粋な幸せ映すあなたの家に

違うのはたった一つのことだった誰も本当の事を言わない

冷たくて固くて濡れたリンクでは祝福うけた勝負もせずに

白黒の鍵盤叩くだけでしょう流れるようなリストが嫌い

教室で過ごす理由が分からない背中でどっとみんなが笑う

笑い声僕を包んで哀れみの色はそらいろ君の瞳の

きらきらと水平線に午後の陽を見ながら兄と遊んだ岩場

ひとつだけ真実があるじっと見る自分が描いた冬の自画像

僕はもう先に死んでた君のこと大好きだった分かってたでしょう

君だけが僕と一緒にいてくれた大切なもの僕に下さい

祝ってね十六才の誕生日プレゼントには君の時間を

温かいからだが冷えていくときに生きてる謎が解ける気がした

テレビ観て笑ってる君この部屋に初めて響く暖かい声

いや違う 君がお家に帰るって言うからそれは違うんだって

そんなこと思ってなかったでも君は横たわってて「好きにしていい」

おとうさんこんなわたしをありがと(うそだ)ててくれてかんしゃしてます

病得て斃れることと人の手で葬ることの違いについて

父親は居ればいいのにただ家に居てくれるだけそれでいいのに

お母さん死んだんだって大好きな君もおんなじ所で待ってて

月のない夜にこころを拡げてくかつて染まった赤よりくろく

たらちねの海ははるかに光をり混沌とした倫理の果てに

落ちている風切り羽の灰色の飛ぶことは無い空を見上げる