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冬の世界

明け方寒さが増す頃に
すり寄って来ない猫を探して 自分から
くっついて寝る そんなふうに
現れないメジロを待っていた三年間だった
ある朝 メジロが
地面に落ちた熟柿を啄んでいた 双眼鏡を構えると
仲間が一瞬よこぎり
どこかへきえていた
その日からふたたび
メジロを呼ぶ果物が 庭に撒かれ
林檎や蜜柑 甘い香りの蜂蜜の皿

娘たちは都会へ帰っていった
新しい価値の混沌とした映画と
自分は 仕事の重圧に顔がこわばり
まだ暗い窓の外に目を見張る
薄ぼんやりと積もっているらしい雪
灰色と黒の世界 あの認知症の男は
名詞が消えてしまったあと
どんな輪郭で見えているだろう
あれこれそれどれ 指示代名詞だけをたよりに
字を書くものを手に取り
白くて薄い平らなそこに
たったひとつ記憶に残った
自分の名前を書き続ける
エネルギーを入れる会社とかいうガソリンスタンド

あの時ぶつかってきた相手の車が 実は
許可もなく
自分の方が相手をぶつからせていたのだと
主体が交代する そのとき
もちろん主役も入れ替わり
善悪の審判もやり直しとなる
われわれ天の川銀河は
アンドロメダと引き合って
すでに衝突している
中心が刻々と移動しているから
僕たちは体に
新しい加速度を感じて
別な方へ押し出されていく