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(これではミカン、蜜柑と変わらない)

この前、SNSで、ベトナムにいる日本人だか、日本語の上手なベトナム人だか、それはちょっとわからないんだけど、その人とやりとりができて、ベトナム料理のMì Quảngの話になった。
 と話を始めたのだが、チョンくんには何のことやらわからないようだった。それはそうだろう、おれも自分でMì Quảngと口にしてみて、ベトナム語としての発音に配慮しているつもりでも、それがカタカナでのミーカンにしかならなくて、これではミカン、蜜柑と変わらないだろう。それで、もうちょっと発音を繊細に、慎重に、ミークヮンとしてみて、チョンくんにもわかってもらえたようだ。チョンくんの口にするところは、ミークヮンではなくて、カタカナではなくて、カタカナのかたさの溶けたような、ひらがなとしてひらたくなったような、それ以上の生々しさとしてのMì Quảngだった。それが日本のまぜそばに似てるんじゃないか、そんな話をしたんだけど。
 チョンくんは一つ頷いてから、似てますね。でも、わたしは食べたことがない。
 やっぱりそうか。そのSNSでのやりとりでも、北ベトナムと南ベトナムとでは食べものとか、かなり違うみたいは話はしたんだ。
 Mì Quảngは、もっと南のほうですね。
 北のほうは、やっぱり、フォー?
 そうですね。日本とは違って、小麦粉ではない、米の麺です。
 それがいいね、日本でももっと米の麺とか出るといい。米の麺だけでもいろいろとあるんでしょう。
 あります。
 ライスペーパーとか、日本は米はいっぱいあるんだから、古くなった米とか、形の悪い米とか、もっといろいろ使えばいい。
 そうですね。
 そういえば、そのSNSでコムタムていうのも教えてもらったんだけど、あれも美味しそうだった。ちょっとタイのガパオみたいな、皿にごはんとおかずとが盛られてて、ごはんていうのが形の崩れた米らしいけど、つまりは、この店での煮卵の形の崩れたものを半額で売るようなことなのかもしれないけれど、でも食べやすそうで、気取ってなくて、ああいうの、おれは好き。
 それも南のほうですね。
 みたいだね。
 チョンくんは、コムタムについては食べたことがあるのかないのか口にしないで、顔つきをややかたくして、来月から、店は昼じゃなくて、夜に出ることになります。
 そう言ってたね、そうだね。
 今週の木曜からです。
 明後日からだ。
 そうです。
 木曜は、前から、昼も夜も。
 そうです。木曜と日曜と、昼と夜と。月曜の休みは同じで、他はずっと、これから、夜。
 体に気をつけて。
 ありがとうございます。今年いっぱいで店をやめるから、それまで頑張って働きます。
 おやかたは、さびしい。人手が足りなくなるだけじゃない。きみがいなくなるのは、おやかたもおかみさんも、さびしい。
 はい。
 店のこととか、客のおれにはわからないことがいろいろあるかもしれないけれど、おかみさんにもおやかたにも、きみは息子みたいなものだ。それはわかるよな。
 わかります。だから頑張ります。
 二人して暫くしんみりと黙りこくることになるのを避けるように、おれは話を戻して、おれも、もちろん、ミークヮンを食べたことはないけど、おれの大好きなませそばは、いつもベトナム人のともだちが作ってくれる。そう、SNSで話したら、向こうも笑ってたよ。


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