障害者差別解消法と、良太とスイミングスクールにまつわるエトセトラ 〜岸田ひろ実のコーチングな日々〜
障害者差別解消法という法律をご存知でしょうか?
2016年4月に施行された法律で、国・都道府県・市町村などの役所や、会社やお店などの事業者が障害のある人に対して「不当な差別的取扱い」を禁止し、「合理的配慮の提供」を求めています。
※詳しくは内閣府のHPをご覧ください。
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai_leaflet.html
残念ながらこの法律が社会に浸透しているとは言いづらい状況なんです。
また、「障害者差別解消法」と聞くと、難しそうだなとか、ちょっとこわそうだな・・・なんて印象をもってしまうこともあるかもしれません。
でも、そんなことはありません。
難しくもこわくもないんです。
今回はちょっと難しそうに思える話を、そうじゃないんだって思っていただけたらいいなと、良太のエピソードとともに話したいと思います。
実は私、障害者差別解消法についてわかりやすく伝える講義を、多くの企業で行ってきました。その時、この法律を、あっ!そういうことなのか!と身近に感じていただくために話していることがあります。
ダウン症があり、重度の知的障害のある息子・良太の小学1年生の時のエピソードです。今回はこのnoteを読んで下さっている方にも、良太のエピソードを通じて気楽に身近に感じていただけたら嬉しいです。
良太は地域の小学校に通い、特別支援学級に所属していました。
みんなと一緒に受けられる授業は多くはありませんでしたが、中でも夏の水泳の授業はみんなと一緒に、とても楽しそうに参加していました。
なぜなら、良太は水遊びが大好きなのと、泳ぐのが得意だったからです。
岸田家 家訓は「子どもたちの好きなこと、得意なことをのばす」なので、良太にも水泳がもっと得意になってほしいと思いました。
そこで、スイミングスクールに通わせたいと思いました。
でも、良太には障害があります。近所には3軒のスイミングスクールがあるのですが、受け入れてもらえるのだろうか・・・。まずそこの心配から始まりました。
まずはダメもとで、1軒、1軒、電話で問い合わせることにしました。
「そちらに通いたいのですが、障害があっても受け入れてもらえますか?ダウン症と知的障害があるのですが、身の回りのことは自分でできますし、指示も理解できます」
息子に障害があることと、息子にできることを説明しました。
まずは1軒め。
「こちらでは障害のあるお子さんを受け入れることはできません。すみません」と、申し訳なさそうに断られました。
障害があるということだけで受け入れてもらえないんだ、みんなと違うということを初めて実感した時でした。でも不思議と差別されたと感じたのではなく、ただただ悲しいと感じたことを覚えています。
次に2軒め。
「そうなんですか。こちらでは前例がないためすぐにお返事ができません。息子さんについていくつか質問していいですか?スタッフと検討してからお返事させてください」
断られるのではなく、いったん考えてくれることに。
後日、電話がかかってきました。
「お受けしたいのですが、今、対応できるスタッフがいません。安全を確保できないので、残念ですが今回はお断りさせていただきます」
結果はダメでした。断られたのですが、なぜか私の気持ちは1軒めとは全く違う感覚でした。悲しいどころか少し嬉しかったのです。なぜなら、障害があるからダメではなく、良太のことを知ろうとしてくれたこと、受け入れることを検討してくれたからです。
そして最後の3軒め。
またきっと断られるんだろうなと、期待せずに電話をすると、意外な言葉が返って来ました。
「わかりました!お話だけでは判断できないので、一度、体験クラスに来てみませんか?」
一瞬、耳を疑いました。
ダメではなく、体験クラスに行ってもいい?もうそれだけですごく嬉しかったです。
体験クラスに参加した結果、見事に合格!「何も問題はないので、お受けできます」と言っていただきました。
やったー!!!
「ただ、ご相談があります・・・」
なんだろう。一瞬、不穏な空気を感じました。
「スクール本来の目標は、上手に泳ぐ、ベストタイムを出す、進級テストに合格するなどですが、今の良太くんはそこを目標にすると難しいかもしれません。でも、こんなにも楽しく泳がれている良太くんにはスクールにきてもらいたいです。なので、当面は楽しく泳ぐことを目標にさせてもらえるならお受けすることはできます」
もちろん、楽しく泳ぐことが目標で大丈夫です。良太がみんなと同じようにスイミングスクールに通えるのであればオールOKです!!!
そうして晴れて良太はスイミングスクールに通うようになりました。
楽しく泳ぐことが目標から始まった良太は、気がつけばどんどん泳ぎが上手になり、クロール、平泳ぎ、背泳、バタフライをマスターし、タイムは遅いながらも中学校を卒業する頃には100mも余裕で泳げるようになりました。
18年前、良太をスイミングスクールに通わせたいと行動したことで経験した3つのエピソードは、今でも私の中で障害者差別解消法について考える時のヒントになっています。
できないことを前提に考えるのではなく。できるようにするにはどうすればいいのかを一緒に考え、お互いに歩み寄りながらゴールを決めること。
全てが可能にならなかったとしても、思い通りにならなかったとしても、お互いがリスペクトの気持ちをもって話すこと、お互いが優しい想像をすることができれば、悲しくならずに解決できることが増えるんじゃないかなと、良太のエピソードから学びました。