山本五十六の教えと信じる力、それが岸田家の大事
私は車いすユーザーになってできなくなったことがいくつかある。その中の1つがガソリンを入れることなのです。
自動車と給油機の間が狭くて近づけない、タッチパネルやカード挿入口に手が届かないなどの理由で、セルフサービスのガソリンスタンドには行かない。給油はもっぱらフルサービスを24時間受けられる通勤途中の高速道路サービスエリアです。
でも、いつかは出かけたついでに近所のガソリンスタンドで気軽に給油できるようになりたいという願望があります。これを叶えるには息子、良太の協力が必要不可。娘の奈美が一緒の時には必ず良太に手伝ってもらいながら教えるという、いつかは1人でできるもん作戦ををコツコツと続けてきました。
それでも、良太が1人でガソリンを扱うのはちょっとハードルが高く…なかなか実際に良太に託すことはできませんでした。
しかしその日は突然に。
どうしよう!ガソリンがない!
仕事の帰り道、いつもの高速道路サービスエリアで給油する予定が、すっかり忘れて帰宅。これでは明日、仕事に行けない。
大ピンチ!
もう一度、ガソリンを入れるために高速道路にのろうかとも考えたけど、あまりにも負担が大きすぎる。頭をフル回転させた結果。
良太!いよいよこの日がきたぞ!
とはいえ、実際に横に立ってレクチャーしてくれる奈美はいない。私が車を降りたところで近づけない。手も届かないと、口以外なんの役にも立たない私。
失敗したら…あーなって、こーなって…爆発する図が頭をよぎる。やっぱり無理だよね…。
その時、私がずっと大切にしている言葉が目の前に現れた。
「信じること」
そうだ、これまで、この日のために何度も良太に教えてきた。良太ならきっとできる。いや、できるまで私がサポートすればいいんだ。
信じよう。
良太に尋ねてみた。
「ガソリンを入れてほしいけど、できる?」
「うん、ええで!」
ふたつ返事。カッコよすぎる。
そして覚悟を決めた。そういうキミを信じよう。
ガソリンスタンドに到着。意気揚々と車を降りて準備を始める良太。車の給油口を開けるところまではバッチリ上手くできた。いいぞ良太!その調子!
しかし、ここから悪戦苦闘。
タッチパネルには選択するアイコンがいっぱいあるわ、カードや紙幣、レシート用の挿入口がたくさんあるわで指示がすごく難しい。伸びる伸びるマジックハンドを持ち合わせていない私は指を指しても届かず、なかなか伝わらない。
とりあえず、私は助手席に乗り移り、少しでもと良太と給油機に近づいた。
「1番上の赤色の四角いやつを押してねー(笑顔)」
「それじゃなくて上だよ!そそそ!もう1つ上!(笑顔)」
「それでいいよ!正解!(笑顔)」
「すごい!(笑顔)」
「良太は天才やわ!(笑顔)」
体を動かして伝えることが難しいので、もっている少ない語彙力をフル活用。必死のパッチの母、ひろ実。
おきづきでしょうか。全ての言葉に(笑顔)を添えていることを。
実は心の中ではなかなか伝わらずにイラッとしてしまうこともあるのです。ブラックひろ実の登場です。
は?なんでなん?わからんかな?って、黒ひろ実が心の中で囁くこともあります。でも、それを出しちゃうと、たちまち良太は焦りだし、できないことに落ち込み、やる気をなくしてあきらめるのです。
ゴールはできること。
かける言葉1つ、笑顔1つで結果は変わります。
おかげさまで、良太のセルフ給油という記念すべき壮大なアドベンチャーは無事に成功しました。
やりきった後の息子、良太の表情は、全国給油選手権というものがあったとしたら、金メダルを獲た時のようなカッコ良さでした。
嬉しくてすぐに娘に連絡をすると、こんなことを聞かれました。
「大人になっても毎日のようにできることが増えていく良太なんだけど、近頃はどのような教育方針なの?」
私は迷いなく答えた。
「山本五十六よ」
やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。
これまでこの山本五十六先生の教えに、私も子どもたちもどれだけ救われたことでしょうか。
山本五十六メソッド、皆さんもいかがでしょうか。
良太が1人でガソリン給油できたというこの上ない達成感を味わった後の母と息子は、ご褒美のラーメンでこの上ない美味しい幸せを味わいました。
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