神様から「おひとりさま時間」をプレゼントしてもらったということにしておこう
2月のとある日曜日、私は夫と義理母と一緒に車でノルマンディのDieppe港に向かった。
そこからカーフェリーに乗って、イギリスのNewhaven港に着く予定だった。
というのも1ヶ月前、イギリスの南部Brightonに住む家族(夫側の)に赤ちゃんが生まれた。女の子で名前はAria。
「アリア」って聞いた時、すぐにオペラが頭に浮かんだ。この子は音楽好きになるに違いない、と夫と話していた。
私たちはお祝いがてら休暇を取ってAriaに会いに行くことにした。
お祝いのプレゼント、ワイン、チーズや諸々、とにかく荷物が多かったので、車の方が便利だった。
フランス西部の自宅からDieppe港まで車で4時間くらいかかる。午後のフェリーに乗るために朝の8時半ごろ出発した。
途中の車窓から大好きなモン・サン・ミシェルが左手遠方に見えた。
気分よく進んでいた旅の途中で思わぬことが発覚してしまった。
何が起きたのか
Brightonに行くはずが、私だけフランスに残っていた。
何故かというと、私がある事をしでかしてしまったからである。
何をしでかしてしまったか?
実は古いパスポートを持ってきてしまったのだ。そのことに気付いたのは、Dieppe港に着く少し手前のサービスエリアだった。
その日の朝、お昼用に3人分のサンドイッチを作って持ってきていた。サービスエリアでサンドイッチを食べて、カフェでお茶を飲んで一息ついていた。
その時である。
カーフェリー会社からメールでチェクインの為の情報を記入するようにと連絡が入った。パスポート情報を記入しようとして、我が目を疑った。
写真が違う、有効期限が2015年って!!今年2024年ですけど〜(そういえば来年更新だ)。
もう心臓バクバクで、やってしまった!有効なパスポートが無ければフランスから出国できない。どうしよう・・・
どうして間違えたんだろう?
本来なら古いパスポートは別の場所に保管しているから、間違えるはずはない。
そういえば去年の11月に滞在許可証の更新手続きがあって、古いパスポートを確認していた。しまう時に間違えて今のパスポートを入れる場所に入れてしまったのかもしれない。
いつもなら必ずパスポートの中身を確認するのに、今回はそれをしなかった。
誰のせいでもない、私が間違えて持ってきてしまったのだ。
すぐに気持ちを切り替えて、この状況を受け入れた。
有効なパスポートがないのだから、家に戻るしかない。いったん家に戻って、明日の飛行機に乗ることも考えた。
だが、チケット代がバカ高かった。翌日便なんだから当たり前だ。
家族には申し訳なかったが、今回は諦めることにした。
仕事や冠婚葬祭でどうしても行く必要があるというわけではないし、ほぼ毎年行っている場所だったから。
とりあえず電車でパリに向かう
サービスエリアからDieppeまでは車で30分、港を横目に急いで駅に向う。その間にSNCF(フランス国鉄)のサイトを確認した。
どうやらDieppe駅から一旦パリまで行って、そこからTGVに乗り換えることになりそうだ。
ほどなくしてDieppeの駅に着いた。夫と義理母には「一緒に行けなくてごめんなさい」と謝って、スーツケースを手に駅構内へと急いだ。
幸いチケット売り場は空いていた。
すぐに私の番になり、「なるべく早い電車で自宅の最寄り駅まで行くチケットが欲しいのですが」と言った。
駅員さんは「10分後に出発する電車に乗れば、一度乗り換え、パリのサン・ラザール駅に18:47に着きます。そこから地下鉄でモンパルナス駅まで行って、19:39発のTGVに乗れば、最寄りの駅に21:55には到着しますよ」と教えてくれた。
10分後の電車なんだから時間がない。すぐにチケットを買って、電車に飛び乗った。
息を整えながら、ぼーっと流れる景色を眺めていた。どこにでもあるフランスの田舎の風景だった。
15:45に発車した電車は16:30頃ルーアン・リヴ・ドロワ駅に着いた。ここで乗り換えの為に下車した。
30分くらい待ち時間があった。ペットボトルの水を買って、携帯の充電が出来る場所を探した。運良く充電出来る席を見つけることができた。
少し休んだ後、17:13発パリ行きの電車の番号が表示されたのを確認して、ホームに向かった。
パリに着くまでの1時間半、どうしてこんなことが起きてしまったのか考えていた。
完全に私のミスではあるが、普段から確認を怠らない性格の私が、どうして確認しなかったんだろう?
もしかしてイギリスに行かない方が私にとっては都合が良かったのか?
ふと浮かんだ疑問。
夫からWhatsAppでメッセージが入ってきた。彼も同じことを考えていたようだった。夫婦は思考が似てくるものだ。
じゃあ、何故イギリスに行かない方が私にとっては都合が良かったんだろう?
その時はまだその答えが見つかっていなかった。
地下鉄に乗り換える
18:50パリのサン・ラザール駅に到着した。
久しぶりにサン・ラザール駅に来たが、近代的なショッピングモールに変わっていて驚いた。何年ここに来なかったんだろう、10年ぶりかな?
地下鉄乗り場まで降りて、自動販発券機で切符を買った。そこから歩いて12番線のホームに向かう。
地下鉄の通路が以前に比べて汚くないし、臭くない。今年はパリオリンピックが開催されるから少し改善されたのだろうか。
地下鉄に乗ったのが17:05くらいだった。モンパルナスまでは9駅。
TGVは19:39発車だから、ギリギリ間に合うだろう。
ところが4駅目のソルフェリーノ駅で「少しお待ちください」とアナウンスが流れて、しばらく停車した。まずい、間に合わなくなってしまう。
少し焦り始めたところで発車した。その後は順調で、19:20過ぎにはモンパルナス駅に着いた。
TGVに間に合うか
ここからが時間との勝負だ!
地下鉄の出口からTGVのホームまでは、かなりの距離を歩かなければならないからだ。
オートウォークを小走りで駆け抜けて、TGVのホームに着いたのが発車2分前。間一髪だった!
もはやイギリスに行くつもりがTGVに間に合って、無事に家に帰れるかゲームに変わっていた。走りながら笑えてきた。
TGVに乗って2時間15分後に最寄りの駅に到着した。そこからトラムウエイに乗り換えて、自宅に着いたのは22:30を過ぎていた。
朝の8時半ごろ車で出発し、4時間かけてDieppeまで行き、電車を乗り継ぎ、TGVでその日の22時半ごろ自宅に帰ってくるなんて予想だにしていなかった。
2月半ば、寒い日の熱い長い1日だった。
なぜ?と再び考えてみる
翌日はまだ少し疲れが残っていたが、翌々日には朝のヨガや筋トレができるくらいまで回復していた。
有効なパスポートはいつもの保管している場所にあった。
ということはその場所に二つのパスポートがあったことになる。上の方にあったパスポートを疑いもせずに持って行ってしまったのだ。
なぜ古いパスポートを疑いもせず持って行ったのだろうか?と再び考え始めた。
そこで気づいたことがある。
Ariaには会いたかった。でも行けなかったことに対しての罪悪感や残念な気持ちがあまり無い。
私は冷たい人間なの?
いやいや、そうじゃない、と思いたい。
義理家族は良い人たちだけど、今でも気を遣ってしまうところがある。
特に義理母は自己主張の強い人で、長く一緒にいると疲れてしまう。
5日間も彼らと寝食共にすることを考えると少し憂鬱ではあった。
そこから逃れられてホッとしたっていうのが正直なところだ。
結局、古いパスポートを持って行ったのは、私のうっかりミスだ。人間なんだから、そんな時もある。
深く考えるのはやめよう。
「おひとりさま時間」をプレゼントしてもらった
今思えば私は一人の自由な時間を熱望していたのかもしれない。
本を読んだり、興味のあることを学んだり、ときどき仕事したり、和食三昧したり、映画観たり、街を散策したり⋯etc、実に充実した5日間だった。
普通のことばかりだけど、「気ままに1人で自由に」っていうのがやりたかったんだと思う。
私は昔から一人の時間が必要だった。誰かと居るのは楽しい、でも一人の時間が少ないとストレスが溜まってしまう。
結婚に対して二の足を踏んでいたのも、一人の時間を確保したい気持ちが勝っていたから。少しわがままな性格なのは自覚している。
夫はそれを理解してくれているので、なんとか上手くいっている。
私は一人の自由な時間を満喫できたし、夫や義理母は家族で楽しい時間を過ごせたみたいだから結果オーライとしよう。
以前から予期せぬ何かが起こる時は、見えない力が働いている気がしてならない。一見するとネガティブな事でも、最終的には良い方向に向かっていることの方が多い。今までの人生で色々と体験してきた。
「もしかしてイギリスに行かない方が、私にとっては都合が良かったのか?」と電車の中で浮かんだ疑問の答えはYesであろう。
やっと納得した答えに辿り着いた気がした。
今回のことは神様から「おひとりさま時間」をプレゼントしてもらったということにしておこう。
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