戦慄の父娘②

春音(はるお)は母が大好きだった。

母は途中民営化した会社で定年直前まで働いており真面目な性格で、少々潔癖症なところがある。
わがまま放題の祖母を嫌ってはいたが、父にも祖母にも逆らわずに、しかし共稼ぎの状態をやめることはなかった。
春音や妹の秋には優しく、ただ、自分の価値観や意に染まない子の行動には冷たい態度を取ることがあった。

春音が小学校高学年のときのこと。
課外活動で春音は腕を怪我してしまった。結果的には骨折をしていたのだが、一晩痛みをこらえ祖母や曾祖母、大好きな母方の祖母とでさえ医者へ行くのを拒み、翌朝の母の夜勤明けを待った。
母は翌日春音を医者に連れて行き、我が子が骨折の痛みに耐えていたことを知りたいへん驚いた。

春音は、母がよかったのだ。
痛くて不安でたまらなかったから。
しかし、母が夜勤を切り上げ早々に帰宅することは、後にも先にもなかった。

また、あるとき春音が学校でたいへんほめられた図工の作品を持ち帰り、得意げに母に見せたことがあった。
だがそれは、母の好みに合わなかったようでその態度は冷たかった。
のちに妹の秋の描いた絵が額に入れられ玄関先に飾られることは何度かあったが、春音の作品は母にも、そして父にも認められたことは、なかった。

そのせいなのか、春音は今でも痛みに強い。精神的にも、身体的にも。
というか、多少の痛みは我慢できてしまう。

そしてそれは、他人もそうでなければならないと思っている。
だから痛みに弱い人間は、自分以下だと決めつけている─たとえそれが生まれてまだ数年も経っていない我が子だとしても。

自身がしたことを、警察や児童相談所から虐待だと宣告された今でも
「自分はそうだったから」
「自分はこう育ってきたから他は知らない」
「気合い・根性・努力で人生は乗り越えられる」
と平気で曰うのは、春音自身の成長時期に要因があるのかもしれない。

しかししれは虐待を続けてはならないし、世の中的に虐待はしてはならない。

私達人間は、野生動物ではないのだから。

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