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虫の話 1/759 Cameronhighland Malaysia 14.Ⅶ.1972 x 2016.3.31-4.4



NFRC:P25

アカエリトリバネアゲハTrogonoptera brookiana という蝶がいる。

標本を眺めると、なるほど、肩に赤いラインがあるから赤襟なのだとわかりやすい。アゲハはアゲハチョウのことだとわかるだろうが、残るトリバネは鳥の羽のように大きいという話である。

この仲間にアレクサンドラトリバネアゲハというチョウがおり、とある話で有名だ。それは、あまりの大きさに、鳥と見間違えた動物学者が散弾銃で撃ち落とした。という話で、僕はつい最近まで本当だと思っていたがどうやら違うらしい。散弾銃で撃つしか高いところを飛ぶ虫を捕まえる手段がなかったのだとか。

なるほど、本種が記名されたという1907年、カーボン製の何mものある採集網なんてものが手に入るわけもなし。南国の鳥のような派手な模様を、蝶類最大級の翅に備えた蝶である。たとえ撃ってでも手に取りたくのも納得である。今ではコレクター心をくすぐるその姿が災いしてかワシントン条約という条約で保護されてしまった。国を跨ぐ個体の移動に関して、生体・死体を問わず規制されている。多くの人がなんとなく知るところで言うと、アフリカゾウ(象牙)と同じ扱いである。

さておき、このアカエリトリバネアゲハ、僕がこの目で、生きた姿を見たときの話を書いてみようと思う。

大学3年の終わり、2016年に初の海外採集旅行へとマレーシアに向かった時の話である。僕の友人2人と、彼の先輩で東南アジアを旅慣れているというMさんら2人合わせて5人でマレーシアを旅行した。Mさんらはどっかの国で鳥の観察ののち、マレーシアで合流することになった。

KLの空港で車を借りて目指した場所は、マレーシアはキャメロンハイランド。昆虫採集では相当に有名で、この標本が採集された土地だ。

初めての海外採集、ジャングルを巡る冒険旅行だと心躍らせている僕に冷や水をかけたのはMさんらだった。マレーシアの道を運転しながら「わーい平らな道だ。子供が運転している車がない!壊れかけの車もあまり見かけないし、左通行だし、ほぼ日本に帰ってきたねぇ〜」なんて喜んでいた。マレーシアの前はどこにいたのだろうか。

途中、自然公園に立ち寄る。いそいそと車を降りて腰を伸ばしているとどうもこの川湯気が立ち込めている。温泉のようだ。側の水たまりのようなところに緑色のキラキラとした塊がある、これがアカエリトリバネアゲハとの初対面だった。しばらく見ていると、どこからともなくアカエリトリバネが川筋に沿って飛んできて、給水を始める。ワシントン条約に指定されているとは思えないほど、結構な数を見ることができる。保護の力は有効だ。また近くにあったパークでは、有料でこのアカエリトリバネアゲハの幼虫を飼育しているところを見ることができた。ここが積極的に個体数保護のためにその様な活動をしているのか、はたまた個人などがある種勝手にやっている事業なのかはわからない。少なくともワシントン条約は、国をまたぐ国際間取引についての条約のため、国内には及ばないからだ。

現地にはオランアスリという古くからマレーシアの地域に住む民族がいる。彼らは、主に昆虫採集によって生計を立て、小さな村を峠道沿いに形成している。そこは昆虫採集家が多く訪ねる場所で、他にはおそらく民族研究者を除けば海外から訪れる人にはあまりにも用事のないような場所だった。
彼らにガイドをお願いし、昆虫採集を色々手伝ってもらい山の中を案内してもらう。オランアスリの使う採集網はせいぜい2mくらいの竹竿の先にワイヤー製のハンガーを輪にして括ったもので、そこにビニール袋を固定して網としており、ビーチサンダルか裸足であった。対して僕らはカーボンファイバー製の伸縮竿にナイロン製のメッシュネット、靴は透湿防水素材のトレッキングシューズである。そして体にはヒルよけと蚊避けのスプレーをたっぷりつけている。

彼らはこなれた足取りで山道をサクサク歩く、相当な頻度で人が出入りするのだろう。道は歩きやすく踏み固められており、比べれば相当へなちょこな足取りで後を追っても大きく遅れることはない。突然先をゆくガイドが立ち止まったかと思うと道の15mくらい先を指差した。当然道の両側面に木が茂っているわけだが、我々の目にはそれ以上でも以下でもない。言わんとすることはわかるので我々の目じゃ何もわからんとどうにか伝えると、彼は笑いながらそろそろと近づき網に何かを入れた。
入った虫はシンジュサンの仲間で、羽を広げると両手ほどはあるとても大きな蛾だ。こんなにも大きな昆虫を、我々はすっかり見落としていたのかとガッカリし、そして彼らの目の良さとせいぜい数百円の虫網にも関わらず、それを巧みに使いこなす運動神経、採集能力の高さに驚いた。

また、少し行くと川に出て何やら臭い。エビの粉末調味料を川沿いの岩に撒いて、上から水をかけただけの即席トラップが仕掛けられていた。様々な蝶がその汁をミネラルやら何やら補給するために集まっていた。とても気の利く

また、河原には見覚えのある植物が雑草的にチョロチョロ生えている、オジギソウだ。日本ではホームセンターなどでしか見てなかった植物で、日本では冬には滅多に見なくなる印象だ。温暖なところでは結構たくましい植物なのだなと感心する。


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