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マイマイカブリ 夏の夜、高尾山

夏の夜、高尾山を懐中電灯を片手に歩く。目的はミヤマクワガタとヨコヤマヒゲナガカミキリ、その他シンジュサンなどいろんな虫たち。そして可愛らしいムササビが見れたら嬉しい。
また季節を変えて秋になれば、狙いはウスタビガといったところだろうか。

そんなわけで結局のところ、主には登山道沿いの外灯とその周辺の木の葉や地面をみて歩くことになる。あとは倒木があればテントウムシダマシやゴミムシダマシの類だろうか。

サルノコシカケ類のキノコの裏にはコブスジツノゴミムシダマシという、手当たり次第に特徴を列挙しただけのゴミムシダマシがいる。彼らは4〜8mm程度の愛らしくもやや独特の臭気をもった甲虫で、その名の通りコブ状の起伏とスジを体に備え、オスの胸郭には立派な2本のツノが生えている。そしてこれがまた愛らしいことにツノの先には毛が生えているのだ。恐らくこれは、攻撃に使うようなツノではないのだろう。そう思うのは毛が生えているからだけではなく、彼らはその生涯を卵から幼虫〜蛹〜成虫までサルノコシカケを食して過ごし、これに穴を開け中を隠れ家ともしている。お菓子の家作戦である。
この仲間が大繁栄しているサルノコシカケは、割ると中から各成長過程のコブスジツノゴミムシダマシが沢山入っている。コブスジアパート、あるいは団地を作っているのだ。

また、夜の高尾山にはいろいろなものが落ちている。1番驚いたのは木の枝かと思ったらマムシだった時で、あと数センチで踏むところをギリギリ避けたことがある。マムシを踏んで噛まれたりしたら大変だし、噛まれずともヘビも人間の体重で踏まれたら大変だろう。

このように僕は夜の高尾山で様々な生き物との出会いを求めて、狩人の眼差しで徘徊するわけだが、同じように昆虫にも同じ眼差しで夜の高尾を徘徊するものがいる。

マイマイカブリである。オサムシの仲間である彼らは肉食性で、その名はマイマイつまりカタツムリを被る姿から名付けられたことでご存知の人も多いだろう。夜、昼間の乾燥を耐え闇夜を慎重に移動するカタツムリを捕食しようと、長い足で徘徊するのだ。

このマイマイカブリは地域ごとに特徴があるようで、高尾山のものは青みがかった色と個体数がやや多めである。僕はオサムシは採集するほど興味がなかったので他の地域がとうなのかは知らないが、なんで地域ごとの特徴が細かく分かれているかくらいはなんとなく知っている。
堅牢な鞘翅と長い脚をもち素早く地面を徘徊し獲物の探索に特化した彼らだが、代わりに飛翔能力を失った。

多湿な環境を好む彼らと、彼らの主食の性質によって蝶のような長い距離での移動をしようとするとその道のりもまた、多質な環境でなければならない。飛ぶことができないので、間に乾いた環境が挟まると彼らにとっては、我々人間にとっての国境のように移動を難む見えない壁になるのだ。

そんなことで、このオサムシの仲間の殆ど全ては飛翔能力が退化して、代わりに高い地域変異を獲得したといった具合のようだ。そんな彼らだが、山だけではなく多質な環境であるから川の周りにも分布しているらしい。またこれが広く浅く分布していて、どうやら越冬の際樹内に潜り込む性質があるから、もしかしたら冬の間に枝ごと流されて分布を広げたりなどするのかもしれない。
なにも効率ばかり求めずに、飛行機がダメならば、たまにはゆっくり船で行こうじゃないかと誘われているような気がする。

少なくとも、中学生が夜高尾山でオールで虫捕りしているときにパトロールのお巡りさんが来た時には、そばにいた知らないおじちゃんが「親戚で虫取りにきてるです〜」なんて気を利かせてくれることが、何の問題もなくスムーズに行われていたくらいにはおおらかで、平和な時代には戻ってほしいものだ。


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