木の葉の標本、保存形式/アケビコノハ

ビーティングと言われる昆虫調査、採集方法がある。
木の枝を叩いて揺らし、枝についている生き物をまとめて落っことすものだ。ただ地面に落としも見つけるのが困難なので、白い傘や専用のネットに落とす。

このビーティングをしていると、いろんな生き物が落ちて来る。その中に今回紹介するアケビコノハという蛾もいる。他にはクモ、カエル、コウモリなんかも落ちる。さてこんな方法で蛾を採集しているのかと思われるが、私がビーティングをして狙う昆虫は主にとあるカミキリムシで、アケビコノハはこの虫を採集していると一緒に落ちてくる賑やかしだ。

この虫、コノハと名前がつく通り枯葉に擬態している。標本にしてしまうとこれがうまく伝わりにくいのだが、前翅を山形に閉じて、茶褐色の前翅の内側に黄色い後翅を包み込む形でとまる。言葉ではわかりにくいと思うので、是非検索頂きたい。

このように、昆虫標本のフォーマットはある問題を抱えている。そもそもが研究を目的として脚や羽などを広げて固定する為、生きているときに取る姿勢からは大きく歪に変形させられている点だ。これによってアケビコノハの例では、生きているときには、一目でこの昆虫にコノハと名付けた由来が釈然とするが、羽を広げた姿で見るとこれがぼやけるなど、逆に昆虫の見えにくくなる側面が生まれるのである。

似たような例が当てはまる昆虫で少し例を挙げてみる。ムラサキシャチホコ(ガ)やタテハチョウの仲間、ツノゼミなどで話をしてみよう。

ムラサキシャチホコは名前の由来とは違うが、アケビコノハと同じかたちで翅を閉じ静止する。その模様はアケビコノハより更に数段技巧派で、カールした枯れ葉に擬態する。これはもはやトリックアートの世界である。枯れ葉に紛れ込んだこの虫を見つけるのは、至難の業だ。逆に、一度見て知ってしまうと、枯れ葉をこの虫と見間違う日々が容易く始まるだろう。しかし、これが標本の形になると途端に話が変わり、受ける第一印象が「枯れ葉」から「蛾」に変わってしまうのだ。是非ムラサキシャチホコをご検索頂きたい。

タテハチョウなどは言わずもがな、とまるとき翅を立てる姿からとられた名前だが、昆虫標本では基本的には羽を広げた姿になってしまい、この特徴が理解できなくなる。

ツノゼミは話をややずらして、環境との接続の意味で取り上げた。この仲間は、背が棘状あるいは独特な造形のコブ状になっている。彼らはアブラゼミのように草木の汁を吸う。違うのは体長が1cm程度ととても小さく、細い枝などについていることが多いのは、バラなどの棘、木の枝の隆起などに擬態しているのではなかろうか。少なくとも、自然下ではそのように見間違えるのである。

繰り返すが、そもそもの昆虫標本の趣旨として研究が目的であるから、自然から切り離して昆虫を観察・効率よく個体数を収納保存することが主目的のため上記は仕方のないことである。生きている姿がどうといってもはじまらない。昆虫標本とはそもそも死体であるのだから。

反対に、教育普及目的に標本を作成するのであれば生きた姿を反映することに目的を置いた、ミニジオラマとしての標本の形作りもある。昨今では"ライブ標本"と呼ばれ、相当な技巧を要して作られた生きている時の特徴を、ありのまま魅力的に残すことを主眼としたものが販売されているのを見かける機会も増えた。

また、これは昆虫図鑑にも同様の問題が言え、近年、九州大学の丸山宗利先生、伊丹市昆虫館の長島 聖大さん、箕面公園昆虫館の中峰 空さん監修による学研「学研の図鑑LIVE 昆虫 」が登場した。これは全掲載写真を、生きている昆虫の写真を用いるという素晴らしい図鑑だ。

私の昆虫図鑑NFRCを横に並べて、かつて彼らが生きていた姿を想像するなどしていただけたら、とても嬉しい。





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