かいこう(2019.5.21)

混雑した駅のホームで
一匹の蚊が
脇目も振らず
わたしをめがけて飛んできたとき
デュシャンを待つまでもなく
この邂逅こそが
宇宙開闢以来の奇跡でなくて
なんであろうと
わたしの血で
腹を膨らましていく蚊を
瞬きも忘れて
見つめていた
しかしながら
芸術は永遠を好まない
それは
小さな痒みを覚えた頃合い
自身の体液と
吸い出したばかりの血に塗れ
わたしの手のひらで
赤黒まだらの染みとなった
宇宙開闢以来
連綿と続いていた
この蚊に至る生命の連鎖を
わたしは断ち切ったのだ
なにが奇跡
なにが邂逅
なにが芸術

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