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詩とおもう(スケッチ)

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情景やら心象やらを集めました。
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2020年5月の記事一覧

初夏(2020.5.12)

知らないおうちの裏庭の 白い花を勝手に摘んで 空き瓶に投げ込む 水を含んだ土の粘り つぶれた葉っぱの匂い まだ日は高い 鼻の頭の汗を指になすりつけ 短く濃い影をひきずって きのうは蟻の巣をつぶした きょうはお葬式 しおれ始めた白い花 母が嫌がる白い花 だから 蟻さんにあげようね 知らないおうちの窓の 白いカーテンに向かって 空き瓶を投げ込む

まだら(2020.5.16)

雨が しろく わたしを染める 降られるままに まだらに しろく 染められず 残ったわたしの部分が 雨粒を 残らず数えきろうとしている 染まってしまえ 一も千も忘れて 染まってしまえ 涙もしろく 染められず 残ったわたしの部分は 秒針を 逃さず数えきろうとしている 染まってしまえ メトロノームよ 染まってしまえ 耳を劈け まだらのからだ まだらのままに 降られるままに まだらに しろく

砂と壁(2020.5.11)

砂場の砂を小さく寄せて 砂場の砂で小さな壁を さらさらとすぐに崩れる 小さな壁をこしらえる 砂の壁は 雨で固まり 風で崩れて 目に入ったりした 砂の壁は 雨で固まり 足で踏まれて こすりつけられたりした 幼い目と手は そこが砂場であることも そこが砂漠でないことも お構いなしで 指のあいだの砂粒を 慎重に払いながら あっさりと崩れる壁を こしらえ続けた 砂場の外の 砂漠の砂は 果ても限もなかった 地図にしるした 小さな座標は 風で崩れて 足で踏まれて 画面から消えていく

音読(2020.2.22)

開かれた 絵本のページを 読み上げながら 言葉に似たものを 密かに 流し込む 幼いふたつの耳の気配を わたしは片耳で うかがっていた 届いているかは知らない このひと夜は 今もまだ続いているから 言葉に似たものは ときおり わかものの口から 言葉のかたちで 流れ出す