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詩とおもう(ステイトメント)

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声明っぽいものを集めました。
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2019年1月の記事一覧

自転(2018.9.27)

それがどれほど陳腐で 手垢に塗れて 使い古されていても そういわざるを得ない 例えば 夕暮れや 星空や そんなものを 私が 涙が出るような思いで 眺めていたのだとしても 美しいとか 祝福だとか 卑近なくせに およそ 程遠い 絵を描けばいいのか 写真に残せばいいのか 成分を分析すればいいのか 鏡に映っているのは 私でも世界でもない そういわざるを得ない 自転の 果ての 切れ端を 掴むことを 私に許す

届ける(2018.9.30)

手は届く だけど そのままにしておく 声は届く だけど 黙っている 届けなければ ずっとわたしのものだ 届けてしまったら それが あなたの手の中で どう溶けていくのか あなたの耳に どう流れ込むのか わたしには どうすることもできない それを 恐れているのか 待ちかねているのか 届けなければ ずっとわたしのものだけど ずっと誰にも届けなかったら 見えない服とおんなじ 見えない服のボタンを外して ただのはだかになったとき いびつなわたしを あなたの目が 照らし出す それを 恐れ

共有(2018.8)

蜻蛉が 急行電車に煽られて 見えなくなった リストに名前がある なければないで 共有オプションから 外れるだけだ 無人のアパートの 壁一面の落書き 俺、参上(匿名希望) まぶたに目ん玉描いときゃいい ああ言えばこう言う お前らの 共有って何だ 蜻蛉を弾き飛ばした 青い電車が 空気と一緒に トンネルに吸い込まれていく

解(2018.10)

どこから来た その問いの 正しい答えは 場所だろうか どこへ行く その問いは 傘を持つべきかを 知りたいのか わたしはなにものか その問いが 円周率を唱える以上の 何かだと言うのか 息の続く限り どこかと わたしとを 座標上に置いて 解を求め続ける 感情線 頭脳線 生命線 汗が滲む数式を 握りしめて 生まれてきたからには

カウント(2017.11.18)

数になるしかない 数にすらならない 三より大きければ「たくさん」だ 二進法も 十進法も 数えるには足らない それでもかろうじて想像してみる 仮に不死だとしても掠りさえしない すれ違ったあなた 後ろ姿のあなた 目の前のあなた あなたの産声から最期の心拍へ こまごまとした時空に置かれるさまざまを 数えるには足らない 数えようとは思わない イマココ イマココ イマココ あとはもう「たくさん」

予言者(2018.9.18)

経験則で おおよそのことはわかる だから ありきたりの予言者は みんな年寄り ミルクが零れる前に コップを掴むくらいのものだ だから あなたの前に現れた 予言者が 年端もいかぬこどもであったら 気をつけなければならない 迂闊な予言を 引き出さぬよう 甘やかな未来を 約束させるよう 丁重にもてなして きちんと 送り出さねばならない 少なくとも その予言が 成就したところで 誰も 罪をかぶらぬように

こ(2018.10.3)

分身じゃない 後継じゃない まして恋人じゃない 偶さか わたしに宿って わたしを通って わたしに縋って わたしを拒んで わたしを無視して やがて わたしから離れて わたしを忘れ ある時 わたしを思い出し わたしを振り返り わたしに手を差し出す その手を わたしは そっと払う 偶さか わたしを経ただけの 大切なあなたは ただの あなた自身であって欲しい

悲しむ(2018.7)

悲しみは癒えない 傷は残り続ける 泣き続け 痛み続け 尽きない涙と いつまでも疼く傷を ぬぐいながら さすりながら 両腕で自分を抱えて 両足で自分を歩かせ 何も解決などさせない 立ち直る必要もない なだめようとする時間に 逆らい続ける 気が済むまで? 気を済ませない 悲しみも痛みもなかった日常から 悲しみと痛みが日常になるだけだ 祈らない 叶うはずなどない 神も仏もあの世にいるのだから わたしはこの世で生き続ける