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からすはたくましく生きる

 からすはなかなか好きな鳥だ。散歩していると、時々出会うことができる。不吉だとか言われることもあるけれど、黒くて賢いところがかわいいと思う。あまり共感は得られないかもしれない。そもそも黒猫が好きで、その影響もあるのだろう。みんなが嫌だというから、僕の偏屈な部分がそれを否定したいのかもしれない。黒い高級車は人気があるのにね。
 彼らは2本足でトコトコと歩く。時には、両足でぴょーんぴょーんと跳ねながら移動しているのも見かける。ハトやスズメに比べて、あまり人間には近寄ってこない。ちょっと離れたところから人間を観察していることが多い。
 先日、駅のホームの端っこをうろうろしているからすがいた。何をしているんだろうと不思議に思った僕は、周りを見回してみた。すると、ベンチに近いところに、何やらパンのかけらのようなものが落ちている。彼はそれを取りに来たいようだ。しかしベンチには人間が1人座っていた。電車がなかなか来なかったので、からすはひたすらもじもじしているし、さすがに難しいんじゃない? と思っていたら、アナウンスが流れ、ホームに電車が入ってきた。ベンチに座っていた人は立ち上がり、電車に乗り込んだ。もちろんからすは嬉しそうに、ちょっと周りを気にしながら待ち続けたパンのかけらを咥えて何処かへ飛び去っていった。彼の粘り強さが勝ったのだ。僕はこころの中で祝福した。
 どんな動物でも同じなのだが、野生で暮らしている動物たちは、体ひとつで毎日なにかしら食べて生きている。たくましいな、と思うし、彼らは何も所有していない。ミニマリストどころではなく、ほんとに体ひとつで生きてるところがすごいなと思う。人間はいろんな物が必要すぎるよな。モノとか、書類とか、尽きない欲望でがんじがらめになっている。この複雑さが時々嫌になる。それでもそう簡単には社会からは離れられない。全体で考えると、やっぱり社会に留まって、ルールの中で生きることを選んでしまう。

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