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患者からみた緑内障治療・線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)その4【ブレブ再建ではなく2度目のロトミー編】

ブレブ再建目的の入院

トラベクレクトミーから1か月。僕のうわまぶた耳側に作られた濾過胞(ブレブ)は、ほぼ閉鎖状態にありました。結膜の癒着が激しく、閉鎖を食い止めるために使用されるステロイドもレスポンダーのため使えない状態で、先日の結膜縫合の際に癒着部分のニードリング(針を用いて癒着をはがす処置)もあわせて行われたのですが、追いつきませんでした。レクトミーの効果を維持するためには、ブレブの再建が不可避でした。ブレブ維持の期間には個人差があるとはわかっていたものの、癒着しやすい体質ということは再建しても再度閉鎖しやすいことも意味するため、重い気分での入院になりました。

手術日程を調整すると外来受診日の翌日に。手術時間帯が午前の早めであったため当日の来院では追いつかず、診察時に前日(つまりその日)入院を打診され、一旦入院した後荷物を取りに自宅と往復する、慌ただしいスケジュールになりました。

術前診察でのロトミーへの変更

ところが、オペ日当日、術前の担当医診察で雲行きが変わりました。隅角検査で房水の流れをチェックしたところ、一部線維柱帯にはっきりとした色素沈着が見られたのです。目詰まりが明確になったことで、レクトミーより前段階の術式である、線維柱帯切開術(トラベクロトミー・ロトミー)への期待が出てきました。もともとブレブの再癒着が懸念されるケースであるため、担当医と執刀医である院長の検討の上、術式がブレブ再建から、マイクロフック・トラベクロトミーに変更されました。

マイクロフック・トラベクロトミー

緑内障手術においては、近年MIGS(低侵襲緑内障手術)が多用されていることは以前触れました。今回用いられたマイクロフック・トラベクロトミーもその一種です。角膜(黒目)の一部を小さく切開し、その中から線維柱帯に小さなフックを挿入する、眼内法のトラベクロトミーです。以前から行われていた眼外法が、眼を360度取り囲む線維柱帯のうち120度程度しか切開できないのに対し、近時の眼内法ロトミーではより広範囲の切開が可能で、手術効果が期待できます。

術後合併症の典型は前房出血で、ほぼ全例に生じます。線維柱帯切開に伴い房水の排出口であるシュレム管から血液の逆流blood refluxが起こるのです。通常は1~2週間で引くため、経過を観察することになります。

今回の僕のマイクロフック・ロトミーでは、360度のうちおよそ200度が切開されました。切開の効果を示すように出血が起き、手術は無事終了した、かのように思われたのですが……。

引かない前房出血

手術直後は出血のため房水が前房まで到達せず、しばらくの間低眼圧が続きました。消炎剤の典型はステロイドですが、これを投与できないため、効果の弱い非ステロイド消炎剤を使いつつ、自然に引くというオーソドックスな方法を採り、術後5日ほどで退院しました。

ところが、事態は帰宅後即座に暗転。実は僕は4月にも1度目のロトミーを受けており、その際には退院翌々日に眼圧が急上昇して緊急処置を受けた経験があったため、一抹の不安は拭えませんでした。残念なことに、退院した日の夜中にかなりの眼痛をおぼえ、朝方に嘔吐しました。眼痛・頭痛・吐き気・嘔吐が、自分の高眼圧の自覚症状だと認識していたので、朝一タクシーで病院にかけこみました。
診察すると、新たな大量出血が。これから度々続く前房穿刺(前房に針を刺して血や房水を抜く応急処置。パラセンと呼ばれることが多いです)と眼圧降下剤マンニトールの点滴で押さえ込みます。執刀医の院長先生にもダブルチェックいただきました。同様の対応がたびたび必要になりそうなので、週末から安静目的の入院を、とのこと。その日は帰宅して荷物をまとめ、中2日で入院生活に逆戻りしました。

パラセン・前房洗浄

ロトミーの眼内出血は2週間くらいで引くのを待つのが一般的ですが、血液をサラサラにする薬を使ってもいないのに出血が引きません。入院中は病状に応じて朝1回または朝夕2回の診察がありますが、そのたびにパラセンで血と房水を抜く処置の繰り返しが始まりました。当然家でできることでもなく、退院の見込みは立ちません。土曜夜の眼圧は40台後半。前後ではそれより高かったこともあると思います。
月曜には職場ではずせない仕事があり、4時間ほど外出許可を得て職場と往復したのですが、その負担だけで昼病院に戻ってから朝に続いてのパラセン。
月曜夕方に今年6回目のオペ室入り。スタッフの皆さんとも顔なじみになりましたが、問題はそこではありません。
前房洗浄は、ロトミーの出血量が多い際には典型的な対応策です。血液中の赤血球が目詰まりの要因になり房水の流出を阻害しますし、他の合併症の原因にもなるため行われます。これによって排出が再開し、自然と回復に向かうはずでしたが……。
今度は、眼の後ろ、硝子体に入り込んでいた出血や房水が、眼圧の安定した前房に戻ってきました。かれこれ10日は視界も出血のため真っ白でほぼ見えません。そして高眼圧の再来。その夜は耐えきれずナースコール。当直医の先生にパラセンしていただき、ダイアモックスを飲みました。

前房洗浄しても高眼圧、パラセンのループ。ダイアモックスは継続内服になりましたが、出口は見えません。閉塞感がただよう中、最後の一手が打たれようとしていました。

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