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ひかれるよー!~子供安全パトロール

  1. 私から…

新興住宅地。

午後3時。
スクール・ゾーン。

瞳、パトロールカーの窓から顔を出しながら、
「武史く~ん、ひかれるよ!
気を付けてネ」
と言う。

パトロールカーを運転しながら、瞳の独白。
(アルバイトのつもりで始めた、子供パトロール隊の隊員。
なんと20代で、熟練のシニアの方々を押しのけて、子供パトロール隊の隊長になってしまった。
この3か月に、私に起こった出来事を、話そうと思う――)

瞳、車を運転しながら、下校する子供たちに、
「みんな、ひかれるよ」
と言う。
 

2.武史君、ひかれる

午後。

瞳が、パトロールカーの中にいる。

瞳のケータイが鳴る。

瞳「えっ、武史君がひかれたの?!
どこ?
あそこネ!」

車のエンジンをかける瞳。

瞳「なんで、こんなときにかかりにくいのよ!」

車を走らせる瞳。

瞳「武史君、あれだけ信号守ってネって言ってたのに」

現地に着く瞳の車。
武史を見て、窓から、

瞳「武史君、立ちあがってる!
救急車、呼ぶより、私の車で行くほうがはやい。
武史君、すぐ乗って!」

武史「ハイ!」

走る瞳の車の中。

瞳「武史君、右足が折れてるわよ――。
痛かったら、『痛い』って言っていいのよ」

武史「全然、痛くない!」

瞳「武史君らしいわね。
お母さん、今、家にいるの?」

武史「いません。働いています」

瞳「何やってるの」

武史「看護師をしています」

瞳「どう連絡を取ろうかな。
お母さん、ケータイ、持ってる?」

武史「実は、今から行く病院で、働いているんです」

瞳「それを早く言って!!」

武史「スミマセン!」

瞳「駐車場から病院まで、松葉杖借りて行くのと、私の肩借りて行くのと、どっちがいい?」

武史「どっちでもいいです」

瞳「将来、女の子と付き合うようになって、絶対、そんな答え方しちゃダメよ。
3日後にふられるわよ」
 

3.武史君のお見舞い

午後

果物屋さんで、
瞳が品物を選ぶ。

瞳「お見舞いの品、お見舞いの品……。
そうだ。
これにしよう!」

車の中。

瞳「武史君、喜ぶかな?」

病院の整形外科病棟。

ある病室へ瞳が入って行く。

瞳「武史君、武史君…、いた!」

武史「あ! 瞳さん」

瞳「お母さんは?」

武史「仕事中です」

瞳「そうか。
挨拶しときたかったんだけどな。
美人でしょ? お母さん!」

武史「瞳さんには、負けますよ」

瞳「そんなこと言っちゃって!」

武史「あっ、イチゴだ。
大好物!」

瞳「武史君、喜んだ。
洗ってくるね!」

給湯室。

瞳「小学生のネットワークも凄いな。
もうギプスに落書きいっぱいだった」

武史の病室。

瞳「もう、お見舞い、いっぱい来ているみたいネ!」

武史「この落書きでしょ?
折ったの、すぐに広まりましたよ」

瞳「この落書きは、何?
『ふってやる!』?」

武史「これでしょ?
ふられたんです。
その上に、『理由』が書いてあるでショ」

ギプスに書かれた文――
『交通事故にあうような奴、ふってやる!』

瞳「本当にふられたんだ!
武史君、付き合ってた子いたんだ!」

武史「泣きましたヨ!」

瞳「泣かなかったくせに、武史君!」
 

4.お母さんへの手紙

朝。

病院の整形外科病棟。

武史のいる病室。

瞳が入って来て、

武史「あっ、瞳さん」

瞳「おはようございまーす」
  
武史「おはようございます」

瞳「武史くん、この手紙、お母さんに渡しといて」

武史「わ、テープでベタベタにして封してある」

瞳「武史くんは、ぜったいに読んじゃダメだからね。
なかなか、お母さんに会えないから書いたの。
よろしくネ」

以下、瞳の書いた手紙。
瞳の声で読みあげる――。

画面は、イチゴを、取り合いっこする瞳と武史。

武史くんのお母さまへ

パトロール隊の瞳です。

なかなかお会いできませんね。

用件を封書でお伝えすることにしました。

今回の事故は、武史くんが信号無視したわけではありません。

相手の過失です。

よって、治療費・入院費は、すべて武史くんの入っている保険で、まかなわれます。

ご心配なさることは、ありません。

武史くんが、保険に入っていて本当に良かったですね。

私も、ホッとしています。

以上、取り急ぎ、ご連絡まで。

今後、よろしくお願いいたします。

        子供安全パトロール隊 隊長
                   瞳

武史「俺も、読みたい」

瞳「読んだら、もうイチゴ買って来てあげないわよ。
大好物なんでしょ!」
 

5.お母さんに会う

朝。

病院の整形外科病棟。

武史のいる病室。

武史の母が、
看護師姿で居る。

瞳が入って来て、
瞳「武史くんのお母さん!
やっぱり美人だ!」

史恵「そんなこと言われても、何も出ませんけれど…」

武史「この人、子供パトロールの瞳さん」

史恵「瞳さんこそ、お綺麗で…」

瞳「そんなこと言われても、何もでませんけれど…。
お母さん、若くて綺麗」

武史「23歳の時に、俺、産んだんだぜ!」

瞳「じゃあ、私と、そんなに年変わらない。
少し上なだけ」

史恵「もう年です――」

瞳「それにしても、武史くんが、保険に入っていて良かった!」

史恵「こんな子でしょ?
何があるか分からないと思って」

武史「俺の信号無視じゃないんだぜ」

史恵「本当ですか?」

瞳「本当です。
誘導のおばさんの証言があります」

史恵「良かった」

瞳「お母さん、
今日は、休憩時間ですか?」

史恵「そうです。
いつも内科病棟にいます」

瞳「一目で分かりました、
武史くんのお母さんって。
目がそっくり。
とうとうお会いできた」

史恵「イチゴのお見舞い、いつもありがとうございます。
今日もイチゴを持って来ていただいて。
もう、お高いでしょうに」

瞳「それにしても、お母さん、お綺麗。
武史くんを見て、想像はつきましたけれど…」

史恵「そんなこと言われても、何も出ませんけど…。
そういう、瞳さんも、お綺麗…。
武史から、聞いてはいましたけれど」

瞳「そんなこと言われても、何も出ませんけど…。
あ、私たち、さっきと同じ話をしている」

武史「バカなんだよ!」

史恵「バカじゃないわよ」

瞳「バカじゃないってば」
 

6.武史君の退院

朝。
病院の整形外科病棟。

瞳「武史君、今日で退院ネ!
おめでとう」

武史「ありがとうございます。
この入院で、“女の子の習性”が分かりましたヨ!」

瞳「どう分かったの?」

武史「交通事故に遭うようなドジな男はふられる“傾向”があるってことですよ」

瞳「『交通事故にあうような奴、ふってやる!』ってギプスに書いた例の子ネ?」

武史「そうです!」

瞳「どんな子だったの?」

武史「“吉永小百合”の少女版!」

瞳「“吉永小百合”なんて、よく知ってるわね!
そんなにカワイイ子だったの?」

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