ディーラー・ギンザ
まえがき-ボンネット
とうとう書き終えましたよ。
『ディーラー・ギンザ』。
何と書き始めは、2015年8月8日にさかのぼります――。
ディーラー・ギンザは、大阪府交野市に実際にあります。
最近、近隣にパチンコ店ができてきて嫌なのですが…。
一台売るのも大変でしょうね。
自動車屋さん。
同期入社の圭子と麻美の奮闘ぶりを、楽しんで読んでいってください。
第1回 また、来ます
朝。
とある衛星都市。
直線500mの4車線道路。
片側に自動車販売業者がずらりと並ぶ。
ホンダ。日産。トヨタ。
ダイハツ。三菱。マツダ――。
その画のまま、圭子の声、
「日曜日に――」
圭子のアップ――
圭子「デートした~い!!」
麻美「圭子、毎週、言ってない?
さあ、開店するわよ!」
圭子達が、まだ、どこの販売店の店員か分からない。
圭子「Tヨタ! ちょっと売れてるからって
偉そうにしやがって」
昼休み。
ロッカールームの片隅のテーブルで、
お弁当を食べる圭子と麻美。
圭子「板垣さんにね、注意されたの」
麻美「何て?」
圭子「学生だからって、ぞんざいに扱っちゃだめって」
麻美「どうして?」
圭子「“学生”が親を説得して買ってくれるんだから、
大事なお客様に変わりないんだって」
麻美「なるほどネ」
圭子「さあ、昼からも頑張ろう」
午後。
カップルの応対をする圭子。
音声は聴こえない――。
家族連れの応対をする麻美。
小さな子供が、走り回っている。
音声は聴こえない――。
子供に風船を渡す圭子。
飛び跳ねて喜ぶ子供。
音声は聴こえない――。
老夫婦の応対をする圭子。
音声は聴こえない――。
給湯室。
麻美「今日、応対、何組した?」
圭子「11組」
麻美「私は、12組」
圭子「売れた?」
麻美「売れない」
夕方。閉店の時間。
圭子「『また、来ます』って言って
本当に来ればいいんだけど!」
麻美「『また、来ます』――ぜったいヤな言葉――」
第2回 Tヨタに勝つ!
朝。
とある衛星都市。
直線500mの4車線道路。
片側に自動車販売業者がずらりと並ぶ。
ホンダ。日産。トヨタ。
ダイハツ。三菱。マツダ――。
その画のまま、麻美の声、
「日曜日に――」
麻美のアップ――
麻美「平日ダイヤで出勤した~い!!」
圭子「今日は、麻美が言った!」
麻美「開店しま~す」
圭子「Tヨタ、何本、のぼり立ててる?」
麻美「わからない」
圭子「ちょっと、調べて来て!」
麻美が偵察に行く。
麻美「12本だった!」
圭子「じゃ、うちは、20本だ」
店の外。
圭子と麻美
「のぼりをつけるのって、
けっこう難しいのよね」
店内。
圭子「風船は、どんなの使ってた?」
麻美「見なかった!」
圭子「ちょっとー。もう一度、見てきて!」
麻美が偵察に行く。
麻美「ミッキーの風船だった」
圭子「じゃ、うちは、UFOの風船だ」
麻美「車に乗せると、静電気、おこすんじゃない?」
圭子「そうかもしれない。
インターネットで、すぐに調べて!」
麻美が、インターネットで調べている。
麻美「分からなかった!」
圭子「じゃあ、ビニールの袋に入れよう!」
麻美「さすがね。圭子」
圭子「さあ、今日は、Tヨタに勝つかな?――」
夕方。
Tヨタの前を通って帰る圭子。
「今日、Tヨタに20台、車が来た。
今日も負け。やはり、Tヨタは強かった!」
第3回 彼氏が来る
朝。
とある衛星都市。
直線500mの4車線道路。
片側に自動車販売業者がずらりと並ぶ。
ホンダ。日産。トヨタ。
ダイハツ。三菱。マツダ――。
その画のまま、圭子の声、
「日曜日に――」
圭子のアップ――
圭子「デートした~い!!」
麻美「圭子、また、言った。
さあ、開店するわよ!」
圭子「最初のお客様が来た!」
啓一「おはよう!」
圭子「啓一くん!
日曜日に来ないでよ」
啓一「一度、来てって言ってたじゃない?」
圭子「ほんとに来ると思わなかったのよ」
啓一「相手くらいして」
圭子「コーヒーにします?
紅茶にします?」
啓一「コーヒーをお願いします」
給湯室
麻美「あれ、彼?
マァマァ、イケてるじゃん」
圭子「麻美に見られちゃった」
店内のテーブル
圭子「ハイ、コーヒー」
啓一「新車の説明ぐらいしてよ」
圭子「こちらの3台が新車で、
こちらの2台が売れ筋になっています」
啓一「この新車、カッコいい。
パンフレット、もらえない?」
圭子「もう、面倒なことばかり言うんだから」
圭子、パンフレットを取りに行く。
啓一「客がいないなァ」
圭子、やって来て、
圭子「こちらが、パンフレットになっております」
啓一「さっきからの、
事務口調、やめてもらえない?」
圭子「いいじゃない別に」
啓一「この車いいな」
圭子「車、買って、まだ一年も経ってないじゃない。
本気で買いかえるつもり?」
啓一「そんなつもり全然ない。
でも、燃費いいネ」
圭子「燃費は、いいわよ」
啓一「真剣に買いかえるつもりになってきちゃった」
圭子「うそばっかり」
啓一「うそじゃないって」
圭子「コーヒー飲んだら、帰ってネ」
啓一「飲みました!」
圭子「そうだ、風船あげる」
啓一「子供じゃないんだから、いらないって」
圭子「風船が減らないと、
お客さんが来てないと思われるじゃない!」
啓一「わかりました。
ひとつもらいます」
圭子「良かった」
啓一「それとノボリがほしいんだけど…。
何だかカッコいいから」
圭子「子供じゃん!
あげられません!」
啓一「『Tヨタ』も寄って、
帰ろ」
圭子「ヤな奴、
早く帰って!」
啓一「じゃね!」
啓一の車が出て行く――。
圭子「日曜日に、仕事場以外で、デートしたーい!」
麻美「圭子、今度から、毎週、そう言うの?」
第4回 田の字、田の字
朝。
とある衛星都市。
直線500mの4車線道路。
片側に自動車販売業者がずらりと並ぶ。
ホンダ。日産。トヨタ。
ダイハツ。三菱。マツダ――。
その画のまま、圭子の声、
「Tヨタに――」
圭子のアップ――
圭子「勝ちた~い!!」
麻美「今日も、圭子の声で始まったわ」
圭子「Tヨタが、あんなに、のぼりを付けてるよ、麻美!」
麻美「20本は付けてるんじゃない?」
圭子「じゃあ、こっちは、『田の字』戦法よ!」
麻美「何それ?」
圭子「麻美も手伝って!
横位置にも、のぼりを付けるのよ」
麻美「効果ないわよ。
横にしたら、文字が、全然、読めないもの」
圭子「そうかなぁー。でも迫力で勝つの」
麻美「無意味だと思うけど」
圭子「出来た!
あと一週間は、こうしとこう」
麻美「もー、圭子の好きにして!」
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