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小説・持たざる者のサバイバル タロット愚者の旅1

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2023年11月の記事一覧

小説・持たざる者のサバイバル タロット愚者の旅4

小説・持たざる者のサバイバル タロット愚者の旅4

サルルが階段を駆け下りようとしたとき
大奥様に呼び戻された。
「よくお聞き、これから牧草小屋まで
誰にも見つかってはいけないし
誰かを連れて行ってもいけない。
今夜はアノ占い婆が泊まっているだろうから
彼女を連れて行きなさい」
何故この屋敷の者ではなくアノ占い婆を連れていくのか
訝しく思ったが質問など許される雰囲気ではなかった。

占い婆は調理小屋の竈の前で居眠りをしていた。
「婆さん、婆さん起き

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小説・持たざる者のサバイバル タロット愚者の旅3

小説・持たざる者のサバイバル タロット愚者の旅3

≪ 12年前 ≫

奉公人や奴隷として買われてきた女たち男たちが
祭りの支度に忙しく立ち働いていた。
明日は一年の内でも一番大事で大掛かりな『春祭り』
大勢の賓客や近隣の農民たちを招いて
今年一年が豊作で安寧であることを祈る儀式の日だった。

「エマ!エマはどこ?大奥様がおよびだよ!エマ!!」
大奥様の小間使い兼女中頭のサルルが
険を含んだ声でエマの名前を連呼していた。

エマは去年の夏に奴隷商か

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小説・持たざる者のサバイバル タロット愚者の旅1

小説・持たざる者のサバイバル タロット愚者の旅1

ボロボロのマントを纏ったその男は
杖にしがみ付くようにして坂道を登った。
周囲が見渡せる場所に着く頃には
額は薄っすら汗ばみ、息切れがした。
男の視線の先には、小高い丘の上に小振りの城といえるほどの
石造りの館が建っていた。
もう何年、何十年経ったかも定かではない、
男は15であの館から旅立った。
記憶の中の館はもっと大きく立派だった。
館の周りは見渡す限りの農場と農園が今も広がっている。

男の

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小説・持たざる者のサバイバル タロット愚者の旅2

小説・持たざる者のサバイバル タロット愚者の旅2

第二話

「おいガロ、お前は今年で12だ」
執事のジャンに突然告げられても
ガロは運ばれてきたスープのことで頭がいっぱいで
何を言われているのか分からなかった。

温かで旨そうな香りのスープに
腹がグーグーなった。
さぁ食べるぞ、嬉しさに頬を緩めてスプーンを持とうとした手を
ジャンがいきなり掴み、ガロを椅子から立たせた。
(折角のご馳走を前になんて酷いことするんだよ)
ガロは珍しく抗って何としても

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