扉の音
ゆっくりと閉まるほど心にのこる扉の音がひとつあること
少しだけお金が入る 沈丁花 くもり空 すこし落ち着いてくる
うずくまる姿が見たい川があり少しだけれど花散る夕に
そのことを言いだすまでの川べりのいくつものかよわき螢
乳飲み児が昔に聞きし櫂の音 桜のはなの青き時刻に
近代の短歌がひとつ敗戦ののち何もなき秋をのこしぬ
ほうほうと梟の鳴くほんとうに食べたいものはべつにとくにない
白白と一円玉がうごかずに春の夕べに一枚しずか
(かばん2019年6月号より)
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