かばん2017年4月号

今はもう水の流れていない川その暗がりにぬるく吹く風

法橋ひらく



階段を下りる音へと雨告げるマーガリンすらぜんぜんのびない

ふらみらり



花を踏む絵巻の鬼の名前は明かされず絵巻の春を眺めてゐたり

藤本玲未



骨をうずめるという比喩なまなましすぎると思いつつ剥くキウイフルーツ

東直子



ユリイカ 停電したホテルに鳥夜明けを待った長く速くの

ハレルヤ 緑のケーキに突き立てるナイフ言葉に国境はない

鈴木智子



ほんとうに会いたいひとはこの場所にいなくて星と嘘を重ねる

本多忠義



私もう短歌はやっていないのよ薄い鎖骨が青く光って

河野瑤



縛られたかほりの満ちるガーデンに

    木片が一つ 売られている

Aquila



東京の石けんの泡まだ白くとろとろ白くてすまないものを

櫛木千尋



ひとは案外平気なもので楽器としても弾かれたりする煉獄で

足田久夢



吹けよ風 からだが涸れてしまうまでかなしいことを泣いてしまえよ

佐藤弓生



なづけようもなき樹々のくらさにほだされてうつしみのやみひとつてばなし

コトハラアオイ/ない



身をよせて 身じろぎ 吐息 あなただけ 幾星霜を超えるビビッド

傾いて君以外からみるみると切り離されて我は浮舟

ミカヅキカゲリ


飯島さんの評を読んでおおおと思ったので。いろんな書き方で書けること、大事。







なな草のなくてないてる葉桜のもと苦き香は立ちのぼりきて


〈ない〉ことに今きっとかなり目が寄っていて、自覚はあるつもりだったけれど、惹かれる短歌にもこんなに〈ない〉が含まれている、とびっくりした。

短歌という手段でなくていいことなら、短歌を使わないでいたい、短歌や自分のもっているもののうちかなり偏ったものではない、いつも〈それ〉に応じた適切な〈言葉〉(言葉でなくとも)を使って接したい。〈こんなにある〉もあって、情・報の扱い方が未熟でもどかしい。何か知ろうとして→はじめにたくさんの数の冗談にふりまわされ→それに疲れてくたばりあきらめてしまう。の繰り返しでおしまいなら、そのもとになるものが自分のなかの〈ある〉や〈ない〉で、新書1000冊くらい読んでバランスが整うくらいなのか、どうか。その時間がなくて、みたいな考えも見当違いで。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?