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かばん2017年7月号

ふるさとが(何度も何度も捨てられて追いかけてくる)口避け女

桜からぽとぽといつも垂れているもっと言いなよ綺麗と言いな

藤島優実



なにもかもが一瞬なれど純白の緒をねじりつつ天を負う凧

井辻朱美



黒目がちなこどもの指でふれている罪のてざわりは完璧な球

足田久夢



瓶詰めの夕陽になれよたましいは浮かばぬように島とうがらしを

とうてつ(はなうる)



姉さん 私はずっと寂しくてあなたの吹いたしゃぼん玉想う

無数の墓無数の提灯無数の火無数の無数の無数の祈り

鈴木智子



ゆふさりのまだしき窓のまぶしさのおまへに俺の余命は言はず

佐藤元紀



さみしくて川のほとりで泣いているあなたを救うため追いかける

白辺いづみ



水びたしならばなおさら幽霊はすり足のまま自由に生きて

木村友



いいかげんやめにしないか まどに雨、むすうにながれきえゆくことば

コトハラアオイ(ゆくふね)



口中にしばしころがす貯古齢糖にわかにくずれ 思春期もそう

(「貯古齢糖」=チョコレート)

飯島章友



花は散り青葉繁れる根元には冬日に埋めた少女の死体

池田幸生



玄関に靴を浮かべて沈まないように祈ってから乗りこんだ

ながや宏高





コンビニの袋が夜を飛行する 胞子のように今を孕んで

伊藤汰玖




400号記念号。

伊藤さんのは、井辻さんが5月号評でとりあげていた歌で、見逃していた歌。ながやさんのは何度か見てはいたけれど、この号を読んで自分のなかでカチッとひとつはまった気がした歌。靴もまた柩、舟、枷で、祈る先にいつもあてはないこと、どれだけ行ってもわからないことに救いがあること。揺れる心をもって靴に足を入れるある一瞬のひとつの沈み方、いっときの後悔、ともいえぬ振り返りや悔い。ともなってにわかに生まれてくる何かの芽、時間。


現代短歌社の「現代短歌」がかわゆくて編集の意図や範囲が伝わってくるので、ときどき買うようになった。短歌総合誌と呼ばれるもの、自分は業界感に反応しすぎて今まで買う気になれなかった。「かばん」のかわいさや変わり者感を外側から言われる感じがちょっと分かった気がする。薄くてとっつきやすくて、編集の及ぶ範囲に諦めや柔軟さが効いていて分かりやすい、風通しのよさみたいな。限られていて、薄く、速く、雑多であることは、普段の時間や生活と結びやすく、使いやすく、深めていきやすく。

今は、自分はずっと映画が観たくて、写真が観たくて、席や時間をあらゆるところに探すような気分で短歌には関わっている気もする。いきたかったところ、いけないところ。いってしまったもの。



笠井烏子さんの「ライターといえば使い捨てライター。」が胸にのこる。池田幸生さんの夏の歌、季と一緒にある歌はいつも泣けてきてしまう。


台風が近づいてきて、コンビニや小学校のある北東の方角は墓と寮、まだ工事中の大きなマンションは夜明けに見上げると九龍城みたいだといつも思う。蝉の鳴くのが一気に上手になってきた。しらじらしくも、書き継がれてきた八月の言葉や音楽によく触れようと思う。

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