犯罪心理とジェンダーバイアス

痴漢の加害者は全体の99.5%が男性である。被害者は女性だけではなく、男性もなり得ることが少しずつ明るみになっている。なぜ男性は性加害を実行するのか。そこにどんな性差が存在するのか。性犯罪にジェンダーバイアスがどのように影響しているのだろうか。

まず、ジェンダーバイアスを考える前に”男女の身体的能力値の差“を考えたい。

例えば、吉田沙保里氏を痴漢する男性はおそらくいないだろう。これは身体能力的要因、またアイキャッチとして機能する女性らしさと正反対な外見的要因が起因している。ここで、女性らしさと男性らしさが逆転した世界を仮定する。(女性は骨格ががっしりとしていてアイキャッチとして機能する魅力も筋肉質や高身長、男性は華奢でか弱い)。ただし、女性と男性の社会的力関係は逆転させない(ジェンダーギャップ指数121位のまま)。実際にジェンダーと男女の身体的要因を切り離すことが出来るのかはここでは考えないこととする。

私は上記の世界線で「性的加害を行いたいという欲求」が引き起こされるのか?という点が重要だと考える。女性は身体能力値が平均的に男性より高く、加害された場合に抵抗したり、仕返すことが可能となる。そして、男性側より力があることで抵抗される危険がないため性的加害を行いやすい環境となる。実際に、痴漢を行う人たちは「大人しそうで泣き寝入りしそうな人」を選ぶことが分かっている。それを踏まえて、加害者の男女比率は逆転するのだろうか?もしも比率が逆転しない、もしくは性的加害が減少するとしたら、ジェンダーバイアスが大きく影響することが実証できる。(検証できないことがもどかしい・・・)

ここからはあくまで私の仮説になるが、現在のジェンダーギャップ指数のままで男女の身体能力値が逆転しても加害者の男女比は逆転しないと考える。なぜなら、男性が優位とされる世界で女性に「性的加害を行う欲求」が生まれると思わないからだ。大阪大学大学院で教授をしている藤岡淳子氏は自身の著書『性暴力の理解と治療教育』にて次のように述べている。

性暴力とは「性的欲求によるというよりは、攻撃、支配、優越、男性性の誇示、接触、依存などさまざまな欲求を性という手段、行動を通じて自己中心的に充足させようとする」もの。

つまり、加害者は攻撃性や支配欲など自らの欲求を自分だけではコントロールできないため、性的加害というツールを介して満たしているものと考えられる。これは女性が筋肉質な身体を身に付けただけでは生まれない欲求ではないか。私はなぜ男性にだけこのような欲求が生まれるのかを考えたい。そこにはホモソーシャルが大きな影響を与えていると考える。支配欲や男性性の誇示、女性をモノ化することで自分のステータスを保つという根深い意識はホモソーシャル的に自然と刷り込まれている。そこから「女性は強姦されたがっている」などという間違った強姦神話が生まれ、彼らの加害欲を促進させる材料まで生んでいる。そういった認知の歪みを正していくには矯正が必要であり、未然に防ぐためにも教育が必要不可欠であろう。

性別に関わらず他人に加害する権利は一切ないということを理解するためにも、性教育の充足は喫緊の課題である。性教育は他者との関わり方、お互いの人権を尊重するためにも大切なものだ。性的加害は加害者に100%の落ち度があり、彼らが加害に至るまでの心理的部分には社会が与える要因がダイレクトに影響している。これからもっとジェンダーを踏まえた犯罪心理の研究を追っていきたい。