「キモくてカネのない女性」は透明な存在である(女性と就労と発達障害)

## 発達障害女性は女社会の共感性圧力によって苦しむのだ論になんか言いたかった

はい、インターネットカミツキガメマガジン、前回記事で私がrei氏を取り上げた理由なのですが、ぶっちゃけこっちの話に突っ込みたかったのです。もう一個の論建てがアレだったのでそっちに突っ込んでしまいましたが。

ちょいちょい他記事・動画などの紹介ありますが、記事としてはこれでだいたい完結しているので、後から参照してもらうといいかもしれません。「楽しい戦後労働史」は勉強になるのでオススメ。

## 発達障害女性はなぜ苦しむのか

rei氏の記事では「発達障害女性は学生時代から女社会圧力によってシバかれているのではないか」といった話をしていましたが、個人的な経験に基づいて話をするなら、自分の場合、「女社会」への不適応は、学生時代はさほど問題になりませんでした。仲のいい人とだけ仲良くすればよいからです。

男の子の友人は確かに多めだったし、いじめられて大変なめにあったこともありますが、それとは別に学校に通うのが厳しいので、人間関係は極めて限られていました。どっちかっていうと親との関係のほうがきつかった。

問題は社会に出てから。

人によっては意識する機会がまったくないかもしれませんが、日本型雇用における女性の立場については、上の動画がわかりやすく・詳しいのでおすすめです。

男女雇用機会の均等は遠く、実際の雇用では女性全体の半分が非正規雇用、さらにうち半分が一般職(総合職+限定総合職が半数、2:1:1くらい。間違って8割と書いていたのをご指摘いただいたので修正しておきます)であり、雇用には厳然と「女性に求める役割」があります。

そして、発達障害の女は、そこで、まず躓きます。なぜか。

「女」をやれないからです。

この記事はわかりやすい。

女性面接担当者は、確かに(rei氏の記事で所謂Slut Shaming的な女性の傾向が扱われていましたが)、「華美すぎないか」を重視する傾向があるかもしれません。しかし、それ以前に、女性面接担当者であれ男性面接担当者であれ、「女性として最低限の」身だしなみとマナーを見ています。

なんでって、伝統的に、それが「職場における女性の役割」で、社会人女性はかくあるものだからです。

身嗜み、清潔感、というのは「容姿」では必ずしもなく、「女性として最低限の身だしなみ・清潔感・マナー」、発達障害女性にとってはとんでもない鬼門です。元々痩せていたらまだマシですが、二次障害で体重が落ちなかったりすると最悪です。「太り気味の人間」が清潔感を出すには相当なソーシャルスキルが必要です(※1)。発話の不自然さは「社会人らしくない」「年相応の落ち着きがない」と見られます。

「最低限、女性らしくする」というのは、実はけっこうたいへんです。人と接するときは笑顔、気配りの素振りを欠かさずに、姿勢よく(発達障害者はクニャクニャしやすいのでこれはとてもきつい)、正しい喋り方で。

男性の発達障害者でもきついのに、更に「女をやる」ための高負荷なプログラムを常駐させておくことの困難性たるや。

20代の頃、診断を受けてから大学中退前・中退後も、必死でソーシャルスキルを身に着ける努力をしましたが、出した結論は、「自分にはスーツを着る(比較的高賃金な)仕事はできないんだ」ということでした。これは正規就労に限りません。非正規でもだめ。肉体労働系もソーシャルスキルがない女性の参入は厳しい。詰んでいる。

当時、こんなに気を使っているのになぜ? と思っていましたが、今ならわかります。私は雇用社会において女性未満、空間に存在させられるべきでない、「気持ち悪いなにか」なのです。

## 「キモくてカネのない女性」は透明な存在である

以前、トイアンナ先生がメンズ向けの恋愛指南で「貴方が好きなのは『清楚な女性』ではなく、富裕層の女性(もしくはプロ)だ」という身も蓋もない(めっちゃわかる)記事を書いていましたが、ジェンダー女性の身だしなみというのは、おカネと手間のどっちかが掛かります(※4)。

外見資本を含む性資産はとても挽回力が高いので、持たざる者のコミュニケーション資本をかなり補ってくれますが、実弾を持っているか、パトロン(実家住まいの親資本を含む)がいなければ外見資本は増やせないので、生きるか死ぬかみたいな生活レベルの女は、そこで這い上がる術を持ちません。

あなたが女性だったとして、

「『女』のロールをやれる」
Yes ・ No
「生まれながらの外見資本がある」
Yes・ No
「外見資本を補填するための財力を使える」
Yes・No
「人に比べて優秀な要素を持っている」
Yes・No

全部Noだったら、能力が高いか、コネがない限り詰みです。(※5)

親世代並みの生活を生活が望めるか望めないか、結婚できるかできないか、みたいなラインではありません。社会人をやれる可能性がほぼ死にます。親元が太かったりしてハッピーにやれる人もいますが、親子関係が往々にして地獄化するのは周知のとおりです。

じゃあ何で女性嫌悪的な男性がパパ活女性やら水商売女性といった、「女性らしさ」ロール上位層の女性や、出会い系アプリでルックスを盛りに盛っているであろう女性の話しかしないのかっていうと、「ほんとにそれしか見えないんだろうなあ」っておもいます。

「キモくてカネのない女性は透明な存在である。」

rei氏の「女社会圧力」の記事なんか、もっぱらルックスと性的魅力の話をしていて興味深かったですが、いや、個別に「そういう視界しか持ってない」男性はべつに悪かないんですよ。責める気もない。美人以外は人間ではない(DOMだのブスだの言っている対象もそれなりの容姿・それなりのスキル持ちだったりする)人々、それこそナマモノだから仕方ないし、女性差別だ! とか糾弾する気もない。

ただ、「雇用のかなり多くの局面において、女性はコミュニケーション能力、佇まいなどのソーシャルスキルで・より強くスクリーニングされる」というのは社会設計の問題です。とはいえ、「印象の問題」だから法的に解決することも難しい。それを、まさに「キモい女」が見えてなさそうなポジションから「女社会の問題」みたいに畳まれたらイラァとはします。はぁ、性的魅力っすか、みたいなお気持ち。

## 統計の話

障害者雇用における、発達障害者の男女比ですが、

「男性 79.9%、女性 20.1%」

文部科学省の調査によると、国内の診断済の発達障害者数の男女比が2.4:1とのことですので、これはけっこうな差です。女性の発達障害者が捕捉されていない可能性も加味するとなかなか厳しい。

ちなみに、精神障害者のみほぼ半々ですが、知的障害者、身体障碍者と、原則女性の障害者雇用率は非常に低いです。

無職時の自殺率だと男性のほうが圧倒的に高いわけですけど、女性の場合、働けないから諦めている部分も大きいのでは、とか思います。期待しなければ絶望することもない。

## 「女社会の大変さ」がないとは言わないけれど

わたしは「女社会」みたいな空間はあまり得意ではありません。冒頭にも書いたけど、弾かれる側の人類でした。

ただ、ただですね、冒頭にも書いたけれど、「女社会」に強制参加しないといけなくなるのは、社会人になって、かつ、一般就労から脱落して、その先なんですよね。女性の多い職場の最たるものが「主婦中心のパートタイマー」、結婚出産で正規就労をやめた女性たちの再雇用先です。雇用制度の設計上、主婦業で忙しい女性(最近では学生)の余暇の利用が目的=面接時点で細かいスキルは見られないので、ギリギリ滑り込むことはできます。滑り込むことは。

しかし、製造・接客・介護補助などなど、これらは「大黒柱がいる前提の低い賃金設定で、高度な対応力を求められる職」です。一般就労の女性が求められるのが「(女性らしい』振る舞いや受け応え」だとしたら、パートタイマー女性が求められるのは「『女性らしい』実務力と女社会への適応力と安さ」、学歴はあっても特殊な資格も手に職もなく、初見ソーシャルスキル配点を取れない女性を採用するのはそういったところしかありません。詰みです。

## 発達障害者女性なんでか結婚してる問題

これ、ほんとうにいつも思うんですが、

インターネットで何かを継続的に発信してるような人間はものすごい上澄みだということを、皆さん忘れてやしないだろうか。ネットで出てくる発達女性は程度の差はあれ、継続的に何かを発信できるのか、文章能力が高いとか、ハイペースで漫画を描けるとか、あんまし好きな言葉じゃないですが、ギフテッド寄りの人がほとんど。

私だってASD・ADHDどっちのテストでもほぼ満点を叩き出せるエリートアスペかつポンコツですが、まぁまぁ高知能で、かつ、10年ちょっと、音楽その他の個人制作とリリース、webでの発信を続けている狂人でもある。

あと、ネットで露出するのは、「親との関係に問題があり、実家に居られなかった」ケースがかなり多いように感じています。「Dicinormal」の宇樹義子さんなど。加えて、「周囲の支援を得た層だけが発信を継続できる(そうでなければ埋もれていく)」ということもあるでしょう。これもやっぱり上澄みです。

## 多くの女性は「特別な女」じゃないんです

激しい語義矛盾が起きている気がしますが、特別な女性は特別だから特別な女性なのであって。バリキャリ女性が少子化論やら何やらでバッシングされることにいつも疑問を呈していますが、彼女たちは「女性ロールと男性と同レベルの仕事の両立を求められる」中で生き残った、あるいは高いスキルや交渉力を持った、ハイパーエリートです。いつも言ってるけど、女性全体の1割もいない。

実家を出るバイタリティがなく、労働参加できず、なんかへんな異能もなく、運よく支援を得ることもできなかった発達障害女性がどうしているのかというと、

…あんまり他人事じゃなくて、私は、イラストレイターの南風先生(女性ですね)が(何故か)東京に呼んでくれなければ、実家に帰らざるを得ず、稼ぎ口はなく、二次障害はモリモリ重くなり……といった道筋を歩いていた可能性はあるし、交際経験なし・結婚もしていなかったし、現在の、障害年金受け取って療養しながら試行錯誤、みたいな時間も得られなかったと思います。現在の結果だけを見るならば、私はとても恵まれていた。

キモくてカネのない男性は(とくにメンタル面で)追い詰められているかもしれないけれど、キモくてカネのない女性は、あらゆる局面において透明な存在である。

医療を受けたり、ジョブトレーニングするためのリソースも、自力でそれを獲得する機会も掴むこともできず、支援に繋がることは難しく、介護や親族の世話が圧し掛かっていく中で、苦境をだれかに伝えるすべも失い(※6)、透明に閉塞していく。そんな姿を幻視します。

(※1) 男性へのモテ指南で「肥満はキツい」と言われますが、標準体重上位にいる女性はモテ以前に就労でかなりハードルを背負います
(※2) 手広い事務所で・事務所の人と仲良くなると結果的に家電販売にも入れてもらえたり・そこで一日にビデオカメラを三台とか異常な成績を出して何やったの?!!などありましたが、女性にはふつう、時給低めの食品系の選択肢しかポップしません。見目が宜しいと別。
(※3) ただし喋るとダメ
(※4) 「SNSで女装する人」は全力で盛りますな、あれを日常のいとなみとして毎日やることになる
(※5) メンヘラロールで依存する相手を捕まえるという抜け道が無くもないですが、あれは才能なので…
(※6) もしかしたらインターネットで暴れたりはしてるかもしれない

ここから投げ銭ゾーンです。ちょっとだけ追記があります。
前回記事の追記同様、あとから記事化するかもしれないので、投げ銭しといてもいいかなって方だけどうぞ。今回はほんとにちょっとだけです。

ここから先は

640字

¥ 300

応援されるとげんきになります。わふわふー。