セックスドール論争の時系列整理

備忘録兼確認用。把握できたぶんだけ。海外フェミニズムコミュニティなどは見ていないので、細かい経過などご存じの方があればお知らせいただけると助かります。

(追記 : 20/08/20) この記事の要点は「人権が問題になるような高性能AIは今のところ開発されておらず、危惧するにも非現実的であるが、セックスドール/ロボット禁止論内で事実に反したプロバガンダが見られる」「禁止署名サイト内の海外規制に関する言及が事実と異なる」といったようなことを問題視して、事実関係を確認したものです。筆者はラディカルフェミニズムの文化・表現への介入に批判的な(反表現規制派に属する)フェミニストであり、この記事は、フェミニズムそのものを揶揄するような意図を一切含みません。

2010年

米ラスベガスでの展覧会にて、トゥルー・コンパニオン社が女性型セックスボット「Roxxxy」(ロキシー)を披露。男性型「Rocky」(ロッキー)と併せて、2016年6月当時の価格はそれぞれ9995ドル。

実はこれ以前から、日本産のラブドールへのバッシングがあったのでは?と推測しているのですが、2015年のイギリスでセックスロボット論争が注目を浴びる→日本の精巧なドールメーカーであるTROTTLAさんが「小児性愛者向けの製品を作っている」として取り上げられた流れがあると推測しているので、今回はここから書きます。

2013年

カナダ:セントジョンズラブドール裁判
カナダ・セントジョンズ在住の当時48歳の男性が、日本からロリ系ダッチワイフを密輸したとして児童ポルノ所持容疑で2013年3月に逮捕。異例の裁判として注目を集める。

2015年

イギリス:「ロボットとの愛とセックスに関する国際会議」(1/17)
セックスボットの第一号の誕生に伴い、ロボットとのセックスは2017年中には現実になる」と人工知能(AI)の専門家デービッド・レビー(David Levy)氏が主張。米カリフォルニアのアビス・クリエーション社による技術プレゼン。

イギリス:「セックスロボット反対キャンペーン」(9/15)
英デ・モントフォート大学でロボット倫理学を専門とする研究者、キャスリーン・リチャードソン博士らが「セックスロボット反対キャンペーン」を立ち上げ、英BBCなどが報じる。同博士は、セックスロボットは女性と子供を「モノ化」する傾向を助長し、人間の共感能力を損なう有害な存在だとして、禁止するよう主張。

アメリカ:『Newsweek』
上記キャンペーンについての記事(現在はデッドリンク)。
Exite Newsの翻訳記事はこちら。

2016年

アメリカ:『The Atlantic』記事(1/16)
『Can Child Dolls Keep Pedophiles from Offending? 』


この中で、日本の少女型ドールメーカーTROTTLA代表、高木伸氏がインタビューを受ける。なお、高木氏の少女性愛傾向への言及があるものの、TROTTLAは「少女型ドールメーカー」であり、製造しているのはセックスドールではない。

この記事自体は、犯罪抑止の可能性、日本人のAMINISUM傾向、シリコンドールの製造過程の危険性と職人としてのこだわり、ドール所有者の愛着などにも触れており、比較的価値中立的な内容といえる。しかし、センセーショナルな表題と、高木氏の性志向への言及などの内容から、小児性愛者の加害性を助長するとして、批判派の議論の対象に。

Change.orgにて、メリッサ・エヴァンズ氏の呼びかけで
「少女型セックスドールの製造禁止」を求める署名が行われる。

60,765人の賛同者。

オーストラリア:『Sydney Morning Herald』記事(8/14)
‘I am an artist’: Man who makes child sex dolls for paedophiles


豪州国境警備隊当局による2013年以降のセックスドール押収(18体)から始まる。TROTTLAのドールを「犯罪を引き起こす可能性のある、子供のようなセックスドール」と表現。2014年、32歳男性の起訴例(詳細は不明)などを挙げる。記事内ではオーストラリア連邦警察の広報担当者が、創作児童ポルノを含めた表現物に強硬な対応を取ると言明。

この後、同様の論調の記事が度々出され、再燃していた模様。

2017年

日:『Business Journal』記事
「子供のラブドール」の世界的メーカー社長が、世間の誤解に反論…「最高のものをつくりたい」

TROTTLA高木伸氏インタビュー。内容はタイトルの通り。

2018年

イギリス:
BBCによる番組
『The Future of Sex? | Sex Robots And Us』


ものすごくプロバガンダ的な内容(筆者主観)。サイボーグ技術、AIロボット、米国製セックスロボット、少女型ラブドールといった順番で煽情的に映していくが、この番組時点で、報道されているような高性能な少女型セックスロボットは開発されていない。

日本のTwitterでほんのり炎上。

アメリカ:
チャイルドセックスロボット禁止法案(クリーパー法)が下院通過、上院で棄却。
『Newsweek』(6/15)
女児型セックスロボットは社会の敵 

Amason.uk が女児型セックスロボットの取り扱いをとりやめ。

2019年

ノルウェー:
ノルウェー高等法院、「児童のように見える100cm以下のセックスドール」の所持を禁止。

韓国:リアルドール論争。(2017年の通関保留から現在まで)

ソウルのアダルトグッズ店ブルル・ドット・コムが海外から取り寄せたダッチワイフ1体がこの年、仁川税関で通関保留となった。
輸入元は日本、価格は84万7000円だという。
一方、ブルル・ドット・コムは、2008年にディルド、また2010年には日本のオナホール=テンガの輸入禁止を不服として裁判で争い、許可を勝ち取った実績の持ち主。
ダッチワイフを巡っても「個人の性的自己決定権の行使を阻害している」として、税関を相手に行政訴訟を起こした。

「産業的側面でも検討する価値がある」と主張して物議を醸したのは、国会議員のイ・ヨンジュ氏(無所属)だ。
イ議員は10月18日にダッチワイフを国会にまで持ち込み、「規制だけを論じるのでなく、産業振興の観点からも対応する必要がある」と訴えて人々を驚かせた。

販売元が最高裁で勝訴するも、フェミニストグループによる署名が26万人越え、国会でどったんばったん大騒ぎ。大変だ。

2020年

オーストラリア:複数の逮捕例。

日本:Change.Orgにて「幼児型セックスドールの生産・販売・の廃止を求めます」の署名が開始。

この記事の時点で賛同が1261名。他意はないのですが、いちおう付記しておきたい情報として、日本の表現規制団体最右翼(左翼??)こと、反ポルノラディカルフェミニズム団体PAPS(ポルノと性暴力を考える会、現ぱっぷす、旧APP研)が「相談窓口」として名を連ねている。文末に追記あり。

## 筆者所感

 2017年あたりで情報戦が錯綜しはじめた気配を感じる。

セックスドール反対派の報道を行っているのは米Newsweek(記事内容が怪しい)とBBCと思しく、BBCの特番はかなりフェイクが多い。Roxxxyは謳われているほどに高機能でなく(この手の技術プレゼンなんてすごそうに見せるものです)、オリエント工業はセックスロボットを作っていない(ドールメーカーだから)。中国でスマートセックスロボットが開発中(あと「AI搭載」というのも売っている。売ってはいる)、国内メーカーは無さげ。

完全に状況からの推測なのだけれど、セックスドールに反対する人々の中で、2018年の時点で「日本製の高品質な少女型ラブドールがある」という話と「スマートセックスロボットの開発実現」のトピックが混ざって「アジア製の高性能少女型セックスロボットが小児性愛者の間で取引されている」という都市伝説が流通していたのでは、と疑っている。

2018年のNewsweekの報道に関しては別記事で検証したい。

DD・1/12ドール愛好・製作者としての問題意識からこの論争を追いかけておられる@Tin_Lion氏から、概略に関しての情報提供をいただいています。この場で謝辞をば。

## 追記

記事をつくっていて、途中まで一部Change.Orgの「幼児型セックスドールの生産・販売・の廃止を求めます」を読んでいたんですが、これ、内容が一部おかしいです。

2020年2月、英国にて中国から輸入された幼児型セックスドールを所持していた44歳の男性が逮捕され、【15年の以下懲役】が罰されました。

リンク先はオーストラリアの摘発記事(この記事でも扱った通り、オーストラリアはセックスドールの所持に刑法罰を課しています)。
なお、英国では熾烈な議論が続いており、税関非公式の見解として140cm以下の少女型ドールは税関整理法によって児童ポルノとして規制の対象となる「かもしれない」とされているものの、今のところ明確に禁止はされていないようです。

▷英国
英国では1979 Customs and Excise Management Act により【わいせつな文書、図画など】の輸入は禁じられている。だがしかし、100個を超える幼児型セックスドールが輸入されている事から、2017年には【幼児型セックスドール】が条例に規制対象として加わった。

リンク先は児童虐待画像の所持で逮捕された元小学校の知事が少女型セックスドールを所持していて有罪判決を受けたという記事で、「条例に規制対象として加わった」というような記述はありません。

▷米国
米国NYでは、2017年にDonovan議員がCREEPR (Curbing Realistic Exploitative Electronic Pedophilic Robots ) Actにより【児童や幼児に類似しているを性的な行為を行うための人形・マネキン・ロボット等の輸入や輸送を禁止】され、2018年には可決された。

可決された風な書き方ですが、アメリカでは下院可決後、上院で否決されたようです。また、リンク先の記事はLouisiana Law Reviewのご意見記事的なもの。

英語記事を利用した結論の誘導、ダメゼッタイ。

(---追記---)

米国CREEPER法廃案の経緯、内容、及び、その後のJUSTICE法案提出の流れについて改めて調べたので、詳細はこちらを確認していただくようお願いします。


----(投げ銭ゾーン / ごめんなさい、何もないです)----

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