#28,#29,#30 家族の機能⑯⑰⑱「家族の合意形成」

個人の意思決定⇔家族の合意形成

以前は家族のリーダーシップ機能と言われていた。
家族をまとめるリーターシップの機能がいかに発揮されているか
今は、リーダーシップ機能というよりも、家族全体の合意形成機能が注目される

1)家族に合意形成が求められること

結婚式/子どもをいつもつか/バースプラン/産後の育児・家事の分担/誰にサポートしてもらうか/育児休暇は誰がいつ/保育園はいつから/
旅行はどこへ?/夏休みをどう過ごすか?/受験するのか否か/車を買い替える/家を建てる/転職する/移住する
療養はどこで誰が介護するか/どこまで治療を受けるのか/本人にいつ、どこまで知らせる?/誰に知らせる?/葬儀は?/法事は?/相続は?

家族の生活は意思決定の連続
ひとつひとつの決定に、家族メンバーが納得していることで凝集性が高まる
目標に向かって行動力が高まる

2)合意形成のプロセス

① 問題(課題)を明確を家族メンバー間で共有する
② 必要な資源・情報を取集する、共有する
③ 複数の方法や選択肢を考える、絞り込む
④ 各選択肢の成り行き(メリット・デメリット)を比較考慮する
⑤ それぞれに意見を述べ合う、それぞれの意見の理由を理解し合う
⑥ 折り合うポイントをみつける
⑦ 再考する(時間を置く)
⑧ さらに情報を収集する、他者の意見を聞く(⑤~⑧を繰り返す)
⑨ 決定する

これらのプロセスをどのように民主的に進めるか
目指すは「それなりの納得」
必要なのは戦略性、交渉術

3)話し合いのフレームワーク(誰と、いつまでに決めるのか)

① 誰を話し合いのメンバーに入れるか?(子ども、高齢の親は最初からカヤの外のことが多い)
② 時間のリミット
リミットがみえにくいのが介護・医療関係
*大切なことは元気なうちから話し合っておくこと/家族のライフプランを考えておくこと/カードで話し合う
*今、その場で決めなければならない/延命治療の選択

4) 対立を生みやすい夫婦の関係性(野末)

① 自己分化度(ボーエン)の差異

・私たち人間は、感情システム(感情や感覚)と知性システム(思考や論理)から成り立っている
・もともと感情システムの塊として生まれてくる→心身の発達に伴って知性システムが分化
・二つのシステムがどの程度分化しているかどうか、自己分化度には個人差がある
・分化度が高いと感情システムと知性システムの両者を使うことができる
・お互いに気持ちをやりとりしながらも冷静に考えることができる
・自己分化度が低いと、どちらかの一方、または両方のシステムが機能しないため夫婦関係で葛藤や問題に直面した再に適切な対処が困難
・自己分化度が同程度の人をパートナーに選ぶ(ボーエン)
・感情システムが優位で知性システムが十分に機能しない人と、知性システムが優位で感情システムが十分に機能しない人が夫婦になると、うまくいかない
・実は、自己分化度は内的なバウンダリーの問題。感情と理屈のバウンダリーをしっかり引く(区分)ことができると混乱しない
(例)
知性システムが優位で感情システムが十分に機能しない夫
論理や理屈に基づいて話す。理路整然。しかし自分の気持ちや感覚を把握して表現することが苦手。
感情システムが優位で知性システムが十分に機能しない妻
自分の感情や感覚に基づいて話すので論理的に考えることが苦手
相手が自分に対して同感や共感を示してくれることを期待
知性システムが十分に機能しないため二人の間に起こっていることを冷静に見つめて考えたり自分の言動を振り返ることが苦手
ひたすら自分の感情をパートナーにぶつけパートナーが感情を理解してくれることを求めるがぶつけられたパートナーは感情理解できず理屈で相手を打ち負かそうとしたり自分の正当性を論理的に主張したり。自分の気持ちを表現したりパートナーの気持ちを理解することができない

② 関係性と個別性志向の差異

関係性:パートナーとの絆を求める欲求
個別性:パートナーと離れて自分自身でありたいという欲求
自己分化度の高い人は、二つのバランスがとれている(自分自身でありながらもパートナーと心理的情緒的に近づくことが可能
自己分化度の低い人、たとえば感情システムが優位で知性システムが機能しない人は関係性に偏りがちで過度にパートナーとの絆を求める
知性システムが優位な人は個別性に偏りがちでパートオナーとの絆を軽視して自分の世界に閉じこもりがち
関係性に偏る人→常に一緒にいたい、愛情を確認したがる、相手と自分との違いを受け入れられない
個別性に偏る人→パートナーが自分と同じように距離を取ることを求める
両者ともに自分が変わる必要性を理解していない

うまく話し合いができない
お互いの自己理解、他者理解、関係性理解による歩み寄りができるかどうか
  
ほかにどのような差異が考えられるか
社会と家族内志向の差異

なぜ家族内の合意形成が難しいのか
① 甘えのねじれ(言わなくてもわかるだろう/これくらいはわかってくれるだろう)
② アンコンシャスバイアス(いつもあの人はそう/そんなこと言っても通じない/私が一番わかっている)
感情的なしこりを抱えている
③ 意思決定と役割が直結(総論賛成、各論反対)
(じゃ、誰が介護するの?/誰が塾の送り迎えをするの?/ヘンに口を出して役割が回ってきたら大変)

5)話し合いの前提

① 合意形成の意思

ファミリールール
・意見の違いは当たり前(自分の意思通りに事態は動かない)
・傷つけ合うこともある
・大切なのは、関係を育てていく意思
・分かり合えないを超えることでお互いの理解が深まり関係性が育っていく

② 論破することをゴールにしない(対話)

・ねじ伏せたいという衝動に身をゆだねない
・相手を逃げ出したい気持ちにさせない

③ ゲーム感覚

・真摯に向き合いつつ、どこかにほんの少し「ゲーム」だという遊び心をもつ
「一回戦終了」のゴングを鳴らす
自分も相手も追い詰めない(お互いへのリスペクト)

6) 話し合う前に大切なこと

① 自分が伝えたいことをできるだけ明確にしておく

感情→ニーズ→リクエスト(提案)→代替案

・えっ!それはないだろう それは違うんじゃないかな
・そんなのさぁ 親のエゴだろう
・第一、そんなことしたって、子どものためにはならないって

自分の感情をつかまえる「感情のテーマは何か?」
・その案を聞いて、いろんなことが心配になったんだ
感情リテラシー(マーシャルローゼンバーク)
それは違う→否定、非難に伝わる
それは違うと感じるその奥の感情は何か?
気が気でない/戸惑い/懸念/心配/不安

自分の本当のニーズをつかむ「ニーズリテラシー」
・人生にとって大切な時期を塾通いだけで費やさせたくない
・熾烈な競争のなかに子どもを入れたくない
・子どもの幸せと健康を第一に考えたい

7) 伝え方と聴き方

① 伝え方は、感情→ニーズ→リクエスト→代替案の順に

(例)いろいろなことが心配になったんだ。(感情)
親としては、子どもの幸せと健康を一番に考えたい。(ニーズ)
それはキミも同じ気持ちだと思う。
どうすることが子どもの幸せにつながるのか、納得するのにはもっと情報が必要だと思う。
いろいろ調べてみたいし、少し時間をかけて話し合わないか?(提案)

そんなこと言っても、もう申し込みしなくちゃ間に合わないわよ

申し込みしなくちゃ、間に合わないんだね。
なし崩し的な感じがして、それは到底受け入れられない気持ちがしたなぁ
塾の締め切りに合わせるんじゃなくて、二人の気持ちの納得を大切にしたい。
ひとまず塾の申し込みは見送るっていうのはどうだろう

NOの時のことを考えておく

「そうじゃなくて」「違うんだって」が口癖の人は要注意

② 話しの聴き方

部分に注目するのではなく、相手の文脈を掴む
・・・と・・・。だから・・・したいと思うんだね。
相手に確認する。

書く、視覚化することによって、問題を外在化する
客観視する

相手がもっと話したくなるような場をいかにつくるか

「甘えのねじれ」に迷い込まないように
アンコンシャスバイアスを意識して
無理なことを自分にも他者にも要求しない
大切なキーワーズ
・人権/バウンダリー/メタ認知/他者理解/関係性の理解/感情リテラシー/ニーズリテラシ/提案力/ストーリーとしての理解/外在化/感情調整/ゲーム感覚

参考文献

柏木恵子・平木典子編著:日本の夫婦 パートナーとやっていく幸せと葛藤、第6章 夫婦間葛藤をめぐる悪循環 自己分化とジェンダーの観点から 野末武義 109-112、金子書房、2014
マーシャル・B・ローゼンバーク、今井麻希子、鈴木重子、安納献訳:「わかりあえない」を超える、海士の風、2021

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?