#31,#32,#33 家族の機能⑲⑳㉑ 「家族の役割分担」

1.家庭内の役割

①大きく分けて無償労働と有償労働
②育児や介護に注目すると
 ・実際のケア担当者
 ・ケア担当者の相談役
 ・社会資源との窓口
 ・意見のとりまとめ役
 ・緊急時のサポーター役
 ・経済的な支え手
  一人に役割の加重がかからないよう重層的な役割分担が望ましい
  多くの人が関わるメリットとデメリットがある

今回は、無償労働と有償の役割分担について取り上げる
○無償労働:貨幣価値を生まない家庭内での家事、育児、介護
○有償労働:貨幣価値を生む労働

2.我が国の性別役割分業の現状

1)共働き世帯と専業主婦世帯(男性雇用者と無業の妻からなる世帯)の推移

戦後の高度成長期 1980年~10年間、専業主婦世帯>共働き世帯
19997年を境に専業主婦<共働き世帯
2021年 専業主婦世帯 566万世帯(31.2%) 共働き世帯 1247万世帯

世帯年収の伸びがストップしたことと重なる
1997年 山一証券 自主廃業
消費税 5パーセント

総務省統計局「労働力調査特別調査」

2)女性の就労率

我が国の女性の就業率(15~64歳)は2018年には69.6%
女性労働力率の「M字カーブ」も近年はフラット化
その内容をよく見ると、女性の管理職割合が低い
労働力の増加が目立つのは正規雇用より非正規雇用(54.4%)
正規雇用で就職した女性も出産や育児との関係から離職することが多い

令和2年版 厚生労働白書「女性の年齢階級別就業率の変化」

3)男女の賃金格差

・OECD主要国のなかで最も賃金格差が大きい
・制度設計の段階では性の要素は入っていないが、基準等が曖昧であるため性別役割分担意識をもって運用されることが必ずしも排除されない制度
・家庭責任を持つ労働者にとって困難な働き方を前提とした制度が採用・配置等の面での男女差を生んでいること
・賃金・雇用管理の運用の段階で、採用、配置や仕事配分、育成方法の決定、人事評価や業務評価などの側面で、男女労働者間に偏りが生じていると、それらが男女間の経験や能力差に、さらには管理職比率の男女差につながっている


4)男女別にみた生活時間(1日に男女各々が無償/有償労働にどの程度費やしているか)

日本 女性 無償労働224分(男性41分) 有償 272分(男性452分)
無償労働の男女比 5.5倍(群を抜いて) 第2位韓国


令和2年版 男女共同参画白書「コラム1 図表1 男女別に見た生活時間(週全体平均)(1日当たり,国際比較)」

3.我が国の性別役割分業に対する意識

長期的には男女ともに「どちらかといえば反対+反対」が増加
しかし女性の37%、男性の44,5%が「どちらかというと賛成+賛成」

長期的には、意識は変化しているのに実態は変化しない

平成29年版 男女共同参画白書「性別役割分担意識の変化」

4.性別役割分業意識の源流はどこにあるのか

韓国でも日本と同じような性別役割分業意識がみられるのは、長らく儒教の影響を受けてきたから(牧野)

江戸時代に士農工商の封建社会の身分秩序維持のため、幕府が儒教思想を広め、人々が生まれながらの分を守ることを徹底させた

世の中には天地自然の秩序、理があると諭し、男尊女卑の言葉が示すように「男が主」「女は従」「男は外、女は内」などの言葉で倫理規範を広めた

四書五経の女子版である女大学、女中庸などの書物は、女子の手習いの書として江戸時代に普及し、女子が護るべき行動規範として広まった

その後、明治時代に家制度を柱とする旧民法がスタート
明治5年に近代学校制度が成立した後も、修身を通じて儒教の規範が学校教育のなかで教え続けられた

戦後の復興と高度経済成長政策の推進のために、再び学校教育のなかに取り入れられ、人々の倫理規範としてよみがえった

戦後の高度経済成長を支えたのが、性別役割分業に基づく「男は仕事・女は家庭」のスローガン

<家庭科の流れ>
1958年から「技術・家庭科」となり、女子が家庭科の授業を受ける間、男子は体育。
体育の授業時間にも男女の差ができるという教育課程

1985年 日本が国連の女子差別撤廃条約を批准
高校で家庭科の男女共学がスタートしたのは条約の批准後10年を経た1994年から

男子も家族・保育について学ぶようになった男女共学世代は、現在ようやく43歳

日本の性別役割分業意識は、儒教思想に根差す根深いもの
戦後の経済政策、教育政策のなかでむしろ強化されてきた

5.なぜ変わらないのか

意識はゆるやかに変化しているのに、なぜ実態は変わらないのか
特に男性の家事・育児参加(無償労働)がわずか41分なのはなぜか?

1)家事が愛情に紐づけられている

自分を犠牲にして家族に尽くすことは、家族に対する愛情表現であり、情緒的満足をもたらすものであるというイデオロギー(山田)

家事をしない=愛情のない女 死を示すために一生やり続けなければならない
夫はこのイデオロギーのせいで家事から免責されている

2)身に付いた主婦性

一番家事能力が高いために、効率の低下や依頼する煩わしさと他者への配慮という循環的なメカニズムが働いている
特にキッチンはしばしば「聖域」と化す
主婦としてのアイデンティティー

家事の負担と依頼することの負担 の悪循環。

夫と妻の家事時間の差 一日3時間弱 一生涯で4万時間

<父親の育児>
父親の育児不在は少子化の原因

休日の育児時間が短いほど次の子の出産率は低い(内閣府2009)
当初子どもが二人欲しいと思っていても、もう産めない、産むまい

日本の少子化は、父親の生き方、働き方の問題(柏木)

6.性別役割分業が夫婦の関係性に及ぼす影響

1)コミュニケーション

<夫婦間コミュニケーションの4つの特徴>
①共感的コミュニケーション:妻>夫
・悩み事を親身になって一緒に考える
・元気がないとき優しい言葉をかける
・共感しながら誠実の耳を傾ける
・おしゃれをしたとき、気づいてほめる

②依存的接近:妻>夫
・迷ったときに相手に相談する:妻から夫
・重要なことの決定は相手の意見に従う
・うれしいことがあると真っ先に報告する
・心を開いて内面的な突っ込んだ話をする
・感情を豊かに表す

③無視・回避:夫>妻
・いい加減な相槌をつく
・うわの天で聞く
・都合の悪い話になると黙り込む

④威圧:夫>妻
・命令口調で言う
・気に入らないとすぐに黙る
・「要するに」といって結論をせかす
・まともに取り合わない

日本の夫婦は、「話を聞かない夫、地図の読めない女」
夫上位妻下位という非対称的な関係性
男性脳、女性脳の構造の違いではなく、男女のジェンダー規範によるもの(柏木)

大学生の女子が男子にかけると喜ばれると思われいる「さしすせそ」
さすが/知らなかった/すごい/センスいいね/そうなんですか

2)経済力との関係

・夫上位妻下位という非対称的な関係性は、妻が無職無収入で夫が経済力を一手にもっている場合に顕著
・妻の収入が自分と匹敵する場合に夫の共感的態度が高まる
・高い経済力を生み出している妻の社会活動や努力/能力への承認
夫が妻の人格的能力の評価が妻への態度を変え、対等で共感的態度をとらせる
・DV

3)生活体験の分離

・男性
職場で必要とされるコミュニケーション:リポートトーク(完結、理論的、抽象的)
・無業の妻
子どや生活圏内で必要とされるコミュニケーション:ラポートトーク(詳細、感情豊か)

夫と妻ではもともと対照的、異質なコミュニケーションスタイル

共働き夫婦でコミュニケーションが活発→夫婦でリポートトークもラポートトークも共有
共働き夫婦では、ワークとライフを共有していることがコミュニケーションを活発にする
【こうした夫婦間のコミュニケーションギャップがもたらすものは?】

①夫の共感的コミュニケーションが低いほど妻の心理的安定と結婚満足度は低い
②夫とのコミュニケーションがうまくいっていない、特に夫の無視・回避が多く共感的態度にかけている場合、妻の育児不安が強くなる
③共感的態度が低いと妻の孤独感(夫といるときにもっと強く)が高くなる
一緒にいても話が通じない
夫在宅ストレス症候群
④妻は、友人ネットワークを拡げ、対等で共感的ネットワークの絆をつくる
夫の対人ネットワークは職場と妻に限定
夫にとって妻は愚痴や不満などの自己開示の唯一の対象←妻への心理的依存度は高い
妻の死が夫の死期を早めるという事実はこのことを示している
⑤夫婦の噛み合わない関係性を妻は子どもとの関係性を強めることで代償する
⑥子どもの自律が妨げられ、子離れ不全(日本の家族発達の病理)

7.性別役割分業意識が男性に与える影響

うつ病(自殺との関連が強い)
自殺率男性>女性(2.7倍)

一般的に男性は女性ほど自らカウンセリングを受けない
女性は、他者に相談したり援助を求めることに抵抗が少ない
男性は、「強くなければならない」「他人に弱みを見せてはならない」といった社会的制約が多く、一人で抱え込みがち

男性自身を孤立化させるだけではなく、パートナーが困っているとき、情緒的なサポートを求めているときもその必要性を過小評価し、「自分で解決すれば・・・」になりがち

男性は女性ほど感情を表出しない(男性の失感情症)
「人前で感情を見せるのは男らしくない」という男性役割の規範が幼児期から刷り込まれている
自分の感情に気づきにくく表現することも難しく、パートナーの感情を共感的に理解することができないために適切な対処が困難

悩みを語ることや感情表現が求められることは、男性にとっては男らしさへの脅威として受け取られ恥の感覚を引き起こすことにつながる
「男らしさ」は、男性の生きづらさにもつながる
結婚をあきらめる男性 女性

8.性別役割分業意識が介護にもたらす影響

2019年国民生活基礎調査 主な介護者(女性65%、男性35%)男性
超高齢化によって男性も介護せざるを得ない状況

男性介護者が抱える問題のなかにも、性別役割分業意識の問題が存在

息子として夫として「立てられ」「もう一人の子ども」としてケアされ続けてきた男性に、老い衰え止む者をケアする心構えやスキルが備わっていない
家事も育児もしてこなかった男性に他者の気持ちや状態に寄り添った世話をする力が育っていない→高齢者虐待(令和2年、息子39.9% 夫22.4% 娘17.8%、妻7.0%)

日本の男性がおとなとしての発達が未成熟

大人であることは、即ケアされることから卒業し、自立と同時に他者をケアする役割を担うこと。
職業的自立、経済的自立だけではおとなとはいえない
ケアするだけで経済的自立を欠いているのもおとなとはいいがたい

「男は仕事」「女は家庭」という生き方は最適性を喪失し、さまざまな心理的問題を生み出している。

9.今後の処方箋は?

諸外国から学ぶ
<フィンランド>
ジェンダーギャップ指数 世界第2位
幸福度5年連続世界1
ワークライフバランス 世界1
哲学 「人こそが最大の資源で宝」
    平等で公平こそが国の基本
    優秀な若い人達の可能性を信じて任せ、ベテランは陰で支える文化
    →34歳女性 首相

ジェンダー平等
・就業率
2020年 15~64歳就業率 男性72.5% 女性70.7%
パートタイム 男性1割、女性2割→日本 男性22.2、女性54.4
母親の8割がフルタイム

・取締役・役員の割合 上場企業 約3割
 各省庁 の女性管理職 約半数 外務省7割

能力に性差はないことが広く知られる 女性を経営陣に登用している企業は業績がいい
(男性経営陣に比べ利益率1割高い)
女性はリスクを早期に見つけて対応、教育レベルも高く専門的知識や経験も豊富
国際感覚やコミュニケーションにもたけている
*授業料は原則無料 無償の手当
マスコミもこうした女性たちをさかんにマスコミで取り上げる
公的機関でも女性を積極的に登用
「平等法」という法律 30名以上いる企業は男女平等に関する行動指針を提出する義務
企業だけではなく教育現場にも

オンブズマン制度:法律のもと、人権が平等に扱われ、不適切、差別的なことがないように

今や当たり前になった政治家の産休・育休

保育園法:親の就業サポートだけではなく、子どもにサービスを受ける権利がある

育休からの復帰も保証されている:1年間の休業補償、復帰後に必ず同じポジションに戻ることが補償

1976年に扶養控除、配偶者控除が撤廃。→男女にかかわらすフルタイムで仕事をし、納税することが求められ、フルタイムで働く人が増えた
 扶養控除は、女性が補助的な労働者となることを固定化させている
父親休暇制度:9週間の休暇
男性の育児に対する意識
「自分だって子どもの人生に関わりたい」
「母親と同じくらいの存在感をもっていたい」
「父親の権利を奪わないで欲しい」
「子どもと一緒にいたい」

離婚が多い国 離婚後共同親権(93%)
二人の間にどんなわだかまりがあろうとも、片方の親が子どもを独り占めにすることはできない
父親にも母親にも平等に子どもと関わる権利がある

・女性が男性に求めるもの
信頼、価値観の共有、尊敬、家族へのコミットメント、家事の平等→経済力は求めない

・起業立国

さて、日本は?

参考文献

柏木恵子・平木典子:日本の夫婦、金子書房、2014
柏木恵子・平木典子:家族の心はいま 研究と臨床の対話から 東京大学出版、2009
家族心理学への招待(第2版);柏木恵子・大野祥子ほか、ミネルヴァ書房、2006
田中俊之:男子が10代のうちに考えておきたいこと、岩波ジュニア新書、2019
堀内都喜子:フィンランド 幸せのメソッド、集英社新書、2022


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