綿草ひろこ|わたくさ

道草画家。絵と文。森や散歩道、ひとりの時間…身近な暮らしから感じ考えたことを綴っていま…

綿草ひろこ|わたくさ

道草画家。絵と文。森や散歩道、ひとりの時間…身近な暮らしから感じ考えたことを綴っています。仙台在住。小さなこどもアトリエ「atelier雨土」

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共鳴する、描く

雪がちらつき北風が吹き荒ぶ中、森を一人で歩いた。 木の幹に触れ、目を閉じる。手がじんわりと温かくなり、木のエネルギーが体に流れ込むように感じる。頭の芯が心地よく振動し、全身へ伝わる。木と自分が同じバイブレーションで満たされ、共鳴する。 私はどちらかといえば山育ちなので、森や大きな木があるところが一番落ち着く。 この時期はちょっと寒いけど、雪の降るしんとした森は自分の内側をクリアにするにはうってつけで、手がかじかむのも忘れて長居してしまう。 木に流れているものと、自分の奥

    • 新緑と絵と

      ウグイスがケキョケキョと少しかすれた声で鳴いている。若葉は初めの頃の柔らかさをなくし、色濃く力強くなってきた。八重桜のピンクと合わさって、森は内側から膨らむようだ。幸せな気持ちになる。 ここのところ作品を仕上げることに集中していて、やっと完成…と言えるところまできた。 久しぶりだ。ここ数年、移住や子育て、病などで、中々絵に集中することができなかった。スケッチはしていたけど、それをある程度納得のできる「作品」として仕上げるには、集中力や根気、エネルギーがいる。 やっとこんな

      • 歩くように生きる

        散歩は、ほとんどライフワークだなと思う。 大体どんなところでも楽しめるのだけど、贅沢を言うなら「自然のある町並みや住宅街」がやっぱり一番面白い。 あんまり都会過ぎてもしんどいし、逆に変化が無さすぎても物足りなくて、人の暮らしや日々の営み、動植物の息遣いが感じられる場所が、一番いい。 旅先でも、観光地から逸れた細い路地や古くからの商店街を歩くのが好き。 普段は結局、自分の家の近くを散歩していることが多いのだけど、いくら歩いても不思議と飽きない。 陽の傾き、植物の芽吹き、風

        • 心繕う

          糸や布を触りたくなる季節だなぁ、と思う。 私は型があるものや「ちゃんとしなきゃいけないもの」が苦手なので、裁縫はあまり進んでやってこなかったのだけど、この冬「ダーニング」にはまった。 「繕う」という意味で、ヨーロッパに古くから伝わる衣類の修繕方法の一つ。 何種類か縫い方の基本はあるけど、かなり自由度が高く、穴の形や自分の持っている糸、センスで、無限にいろいろな模様が描ける。まるで、布に絵を描いているみたい。 娘は毎日これでもかというくらい、ズボンや靴下に穴を開けてくるの

        マガジン

        • 自分と向き合う
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        記事

          春立つ、飛び立つ

          森の中、切り株の上に座る。 目に映ったものをスケッチしていくも、調子が出なくて手を止める。 柔らかなケヤキの落ち葉と、温かみを感じる切り株の感触が心地いい。植物と土の匂いがする。 雪が散らついていても、どこか芯の方に春を感じる空気だ。身体の力が抜ける。 この2ヶ月間、立て続けにいろいろなことが起こって、ひたすら自分と向き合い、考える日々だった。 幼稚園とのトラブル、家族全員の高熱、そして祖母の死…。 私とは何なのか 何がしたいのか どう生きていきたいのか 困難に直面すれ

          わからない

          散歩がてら近くのコーヒー屋に寄ったら、店員さんが「スリーブつけますね」と言って付けてくれた。 スリーブというのは、熱い飲み物の入った紙コップにつけるカバーみたいなもので、あると持ちやすくて助かるんだけど、これを付けてくれる店員さんとそうではない店員さんがいる。 もちろん一言頼めば付けてくれるのだけど、私はこの「スリーブ付けてください」がなかなか言えない。 忙しそうなのに悪いな〜とか、面倒くさそうな顔をされたら嫌だなぁとか考えてしまって、それを頼むくらいなら、多少熱くても我慢

          初冬に想う

          今、8年前と同じ場所に住んでいる。 行動範囲や付き合う人も、まるでその時の足跡を辿るかのように重なってきているから不思議だ。 当時、私はアトリエを始めたばかり。 商売の知識や作家としての下積みもほとんどなく、手探りで仕事を始めたばかりだった。 時には厳しいことを言われることもあって、その度に萎縮し、あまり順調とはいえなかった。今思えば、時期が少し早過ぎたんだと思う。 それでも、喜んでくれたお客さんはいて、今思い返しても悪くないと思える仕事もあった。 その後少しして夫と出会

          ちょっとの冒険

          5年ぶりに、地下鉄に乗った。 神奈川にいた頃は時々電車に乗っていたけれど、娘が生まれてからはほとんど乗らなくなったし(ぐずりやトイレの問題で)、何より音や人で溢れている駅や乗り物はもともと得意ではない。 ところが数日前にふと、「もう乗れるんじゃない?(むしろ乗ってみたい)」という気持ちが湧き上がってきて、「ダメそうだったら帰って来ればいいや〜」というノリで、娘が幼稚園に行っている間にやってみることにした。 イヤーマフ(防音)をつけてリュックサックを背負い、ちょっとドキド

          新月の晩に-改名-

          昨日は新月でいい潮時だったので、思い切って「改名」しました。 もともとは、旧姓をもじった作家名。 本名を取り入れつつも、この際だからもっと今の自分にしっくりくる名前にしたいと思い、一週間ほど文字とにらめっこ。 もやもやしていたものが、昨日の新月でストンと落ち着ついて… これからも、喜びや心震えるものが膨らんで、広がっていくといいな。 いとひろこ改め、綿草ひろこ(わたくさひろこ)です。 よろしくお願いします。

          新月の晩に-改名-

          生き物

          メダカ、アマガエル、バッタ、アゲハの幼虫… 昔から生き物が好きだ。 私に似たのか娘も最近やたらと捕まえてくるので、リビングが虫籠で溢れかえっている。 「生き物を飼うことは責任の伴うこと」と伝えてはいるけど、幼稚園児にはやはり難しいのか、とにかくいじり回したくてしょうがない。 「そんなことをしたら弱っちゃうでしょ〜!」と言いながら、自分も昔はさんざん同じことをしたなと反省する。 虫や植物、魚、両生類…生き物がすごいのは、環境さえ整えば誰の手も借りずに自立して生きていく、とい

          溶けて変わる

          夏至のあたりから、なぜか自分の内側が大荒れで、イモムシが成虫になる前にサナギの中でドロドロに溶けるみたいに、自分が一旦バラバラになったような気がした。 夫ともぶつかって何度か話し合い、長年世話になってきた古い価値観を手放すこともした。 今は嘘みたいにすっきりしているけれど、あれは一体何だったんだろう。 気象の影響もあったと思う。 私は思っていた以上に、月や天気の影響を受けやすいようで、梅雨の湿度や蒸し暑さが全く無関係だったとは言えない。 でも、それより何より一番の原因は、

          雨に溶けて

          濡れて色の濃くなった土と草の間から、ポツポツと白いドクダミの花が顔を出している。明かりを灯しているみたいだなぁ、と思う。 アトリエに「雨土」という名前をつけたのは、こんな季節のことだった。 当時、私は祖母と暮らしていて、アトリエとして使わせてもらっていた部屋の窓から、祖父が生前気に入っていた庭を眺めるのが好きだった。 菖蒲やサツキが咲き乱れる庭を、シトシトと静かな雨が濡らしていた。 ザァザァ、パタパタ、チョロチョロ、ぴちょんぴちょん…濡れた土と緑の匂い。 自然に体の力が抜

          好きなだけ一人

          娘は毎朝、私と別れる時「ママー、ママー!」と大声で泣く。 あまりに泣くので4月当初は私も戸惑い、「まだ幼稚園に入れるのは早かったか」と悩み、一緒に涙ぐんだりした。 けれど先生の話を聞いてみると、私の姿が見えなくなった途端、ニワトリに餌をあげに行ったり、給食室に挨拶をしに行ったりするらしく(今日の給食はなんですか)、子どもとは親が思うよりも案外タフで切り替えが早いものなのかな、と思うようになった。 午後に迎えに行けば、満面の笑みで教室から飛び出して来て、その顔は涙と鼻水と砂と

          春に押されて

          先週から急に暖かくなって陽射しの強い日が続いていたけど、森はいつも涼しくて静かだ。木の根元に腰を下ろし、ほっと息を吐く。 このところ、娘が幼稚園に入る関係でバタバタしていて、スケッチは毎日していたものの、文章を書いたり絵を発表したりする気持ちにはなれなかった。 それでも、幼稚園グッズに押す名前のハンコを彫ったり、新しい暮らしの道具を揃えたり(近所に引っ越すので)と、案外楽しんではいた。 そうしている間に、陽射しも木々も鳥たちも、もうこんなにはっきりと春を告げていたんだなぁ

          自然を食べる

          夕方どこかのお宅からカレーの匂いが漂ってきて、娘が「パパ(の)カレーたべたい!」と言い出した。 うちのカレーは夫が作る。 というか、子どもを産んでしばらくしてから私は料理ができなくなった。 料理は、家事の中でも最も頭を使う作業だと思う。 飽きのこない献立、主菜に副菜に汁物、栄養のバランス、家族の好み…。食材を腐らせないようにうまく使って、調味料を工夫して、私たちと娘の食べられるものは違うから別に用意して…。複数の鍋を同時進行。これを煮ている間にこれを切って、下ごしらえをし

          はるの青

          庭の椿をスズメが突いてる、と思ったらメジロだった。 椿の葉と似た綺麗なウグイス色で、目の周りの白い縁取りがかわいい。 最近なかなか文章をつくる脳にならないなと思っていたら、いつの間にか頭も体もガチガチだった。 そこで、情報とかやるべきこととか先の心配とか、余計なものを思い切って脱ぎ捨ててみたら、春のぽかぽかする陽射しが染みわたってきた。 「青を描きたい」と思った。 色を塗り重ねるうちに心がだんだん浮き立ってきて、「これが今見たかった色だな」なんて思ったりした。絵を描く理由