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僕らは星を眺めている

頭の後ろを落として見上げると、言葉は力を失う。

あまりにも壮大で、うそみたいで、近く見えるのに、手の届かない大きな現実。理解と遠いところにある夜空。足元に転がる関係性や、昨日の失敗とか、長年の想いなんかも全部飲み込んでいく。

みんな小さくてハイテクなパソコンを持ち歩けて、理由はわからないけど、電波が飛んでるらしくて、街と街をつなぐ大きな橋があって、花粉症の薬を夕方に頼んだら、次の日の昼には僕の鼻水が止まっている。今日も明日も、後ろから誰かに襲われることを気にせずにご飯が食べられる。

誰かが渇望した、他を圧倒する強さ、部屋の暖かさ、怠惰、効率の良さ、安心、余裕、平穏。僕らに関わる全てが誰かが描いた夢だ。目の前には全てがある。争いをやめられない人間たちの、もう一つの心が作った少しだけ静かな世界。

人は争いをやめない。そんな人はいないはずなのに、事実として世界ではそんなことがずっと起きている。作られた夢を見ていた、変えたり変わっていく歴史を目の前にして、僕らは呆然と立ち尽くしている。慣性が働いたみたいに、頑張って作った豊かさはゆっくり音を立てて壊れていく。誰かのわがままが、みんなで作り上げたものを壊していく。

僕らは星を眺めている。ずっと、いつか終わるまでこの夢の中にいたいと思う。言葉なんて。伝える、なんて。自分は言葉や感情を適当に扱いすぎていたと思う。心が透けて、形をあらわす。言葉なんか必要ではなくなった。

夜が明けていく。みんなそれぞれの荷物を抱えて、それぞれの歩き方で、街へ戻っていく。波の音に打ち勝つ言葉を、僕はまだ持っていない。電車は走り出す。また一日一日が進んでいく。

星空に敵わない僕らの気持ちを信じていたい。星空にもわからない僕らの出会いや別れを信じていたい。また夜が来て、違う匂いのする街で、また僕らは星を眺めている。


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