円高・株安は突然に?
まず、そもそも今春頃からの円安は金利差で説明が難しく、いずれ調整が起きる可能性が高まっていた(Chart 1)。
もちろん、為替は必ずしも金利差で決まるわけではない。むしろ、経常収支や貿易収支の赤字、短期的な資金フローなどは無視できない。
とはいえ、すべてを「悪い円安」に絡め、国力低下とか、デジタル赤字、NISAなどと結びつけて説明しようというのはやや強引。少なくとも、債券市場を中心に日米(欧)で金融政策が逆方向に向かうという見方が強まるなかで、それを無視した議論の説得力は乏しく、持続的だともいえないだろう。
また、HFを含む海外投資家の多くは上半期に十分なリターンを確保。欧州議会選を受けた欧州での政治的な混乱の兆しを受けて、6月頃から利益確定が優勢となっていた。そこへ第1回米大統領選候補者討論会でのバイデン大統領の失態、三中全会での景気テコ入れ策への期待の空振りと続き、一段と利益確定の動きが広がった。
実際、米国株のファクターをみると、6月頃からトレンドが変わる兆しが表れ、7月以降はそれが一段と鮮明になっている(Chart 2)。
確かに「トランプ・トレード」も話題となったが、米大統領選の結果も実際の政策も不確実ななかでポジションを一方向に傾けるのはリスクが高い。しかも、投開票日はまで3ヵ月以上あり、いずれの陣営も素直に選挙結果を受け入れるかも怪しい。
そこへバイデン大統領の選挙戦撤退というニュースである。先行きが全く読めないなかで、夏季休暇も控えていれば、いったんポジションそのものを解消し、現金化しようとの判断すらあり得るだろう。しかも今年は上述した通り、上半期に十分なリターンを確保しており、無理をする必要がない。
こうした環境下で、日本の政府要人から利上げを促すと受け止められかねない発言や日銀が追加利上げを模索していると報道。また、米国では元FRB高官が従来の"higher-for-longer"の立場を一変させ、次回会合にでも利下げに踏み切るべきとの記事が紹介された。
昨日から今日にかけては、上述した通り、夏季休暇を控え、やや市場の厚みが薄くなりやすいタイミングに、残っていたポジションの巻き戻しが進んだと考えられる。
なお、米財務省の為替報告書が為替介入の障害になるとの見方もあるようだが、それは圧倒的に自国通貨売りの話だろう。それを自国通貨買いにも当てはまるとするのは「悪い円安」論を本気で信じているとしか考えられない。
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