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”AAPM Task Group 329: Reference dose specification for dose calculations: Dose-to-water or dose-to-muscle?“を読んで

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AAPM Task Group 329: Reference dose specification for dose calculations: Dose-to-water or dose-to-muscle?
https://doi.org/10.1002/mp.13995

読んでみたきっかけ

“水による吸収線量(放射線の熱量みたいな感じ、J/kg)=患者さんの線量、でいいの?”ということですね。
コンピュータの性能が飛躍的にUPした現状では、もっと正確に計算する必要はありますよね。
私もこの業界に入った時から、「人間はほとんど水分だから、手に入れやすく費用も掛からず表面が水平になる等のというメリットのある”水”を患者さんの体内組織として測りましょう。」と諸先輩方から言われてましたので、実際どうやって計算するのか興味があります。

要旨

リニアックは水中で校正されますが、患者は主に軟部組織で構成されています。従来、水中線量から軟部組織線量に変換するために、0.99の係数を乗算していました。しかし、最近の治療計画装置(TPS)では、水中線量から軟部組織線量を直接計算できるようになりました。この文書では、各TPSが水中線量から軟部組織線量をどのように計算しているかについて説明し、各TPSで必要な係数を記載しています。

現場でやっている医学物理士の感想

INTRODUCTION

「患者の軟部組織への線量を最もよく推定するために、水中でのリニアックキャリブレーションを治療計画システムの基準線量に変換することが、医学物理学コミュニティにとっての課題であり、今も課題となっています。」

INTRODUCTION

やっぱり「水=患者の軟組織」は疑問がありますよね。

DOSE-TO-WATER VS DOSE-TO-TISSUE

「すでに 1983 年に指摘されていたように、理想的には、水と組織の化学組成の違いは、治療計画システム (TPS) によって考慮されるでしょう。つまり、計画システムは患者が水に等価ではないことを認識し、線量計算では組織への線量を正確に計算することで本質的にそれに対処します。」

DOSE-TO-WATER VS DOSE-TO-TISSUE

40年前の1983年から言われていたのですね。

「残念ながら、この論理的な連鎖は、これまでも、そして現在も常に守られているわけではありません。CT ベースの計画以前は、TPS 計算では患者が均一な水であると仮定していました。CT 計画であっても、線量は患者が水であるかのように単純に計算されることがよくあります。」

DOSE-TO-WATER VS DOSE-TO-TISSUE

そうですよね。水vs軟組織の差は”誤差の範囲”と言っても良い(かった)のかもしれません。

「この「1%」は、歴史的に臨床基準キャリブレーションで使用されてきた水ファントムから筋肉への変換係数でした。」

DOSE-TO-WATER VS DOSE-TO-TISSUE

世界的にはそーなんですね。勉強になります。

「深さが深くなると、水と組織の質量減衰係数が異なるため、深さの関数として光子エネルギーフルエンスに差が生じます。モンテカルロ シミュレーションを通じて、この複雑な問題に光を当てることができます。」

DOSE-TO-WATER VS DOSE-TO-TISSUE
フォトン

そうか。モンテカルロ シミュレーションは水ではなく軟組織の線量を計算できますよね。なるほどね

「過去の 1% の補正係数は、0.7 ~ 1.3% の変動(6MV~18MV)を考慮した単純さと精度の間の合理的な妥協点であったことを示しています。」

DOSE-TO-WATER VS DOSE-TO-TISSUE
フォトン

「表面での差は、6 MeV ビームと 22 MeV ビームでそれぞれ 1.38 ± 0.1% と 1.14 ± 0.06% でした。」

DOSE-TO-WATER VS DOSE-TO-TISSUE
電子

光子線と電子線はほぼ1% の補正でよいというわけですね。

線量計算の概要

「リニアックの水に対する線量校正(TG-51または同等)をTPSの組織に対する線量計算に最終的に変換するという観点から、基準校正媒体、TPS基準線量仕様、TPS線量報告という相互に関連する問題について、現在明確なガイダンスは存在せず、医学物理学のコミュニティにはばらつきがある。」

線量計算の概要

”そもそも軟組織で線量を測ったらいいじゃん”と思うかもしれませんが、理想的な(人工)筋肉などないですし、固体ですから測定深を変えようと思っても水のようにはうまくいかないと思います。だからこそ、リニアックの品質保証として(1) 水で吸収線量を測り決められた値であるか確認する、(2) 臨床として、放射線を照射する場所(軟組織)にある線量になる治療計画を立てる、ということは別々に保証する必要があり、このレポートでは(2)の方にスポットを当てていますね。

「問題は、リニアックのキャリブレーションが”線量 対 水”として行われ、TPSが(患者を密度の異なる水と仮定して)”線量 対 水”を計算した場合、補正を適用しなければ、患者への線量は1%過大評価されることです。これとは逆に、リニアックのキャリブレーションを筋肉に対する線量に調整し、TPSで組織に対する線量を計算すると、補正が2回適用され、その結果、患者に対する線量が系統的に1%過小評価されることになります。」

線量計算の概要

どうやったらミスがなく正確な線量がわかるんでしょうか?合理的なやり方を教えてほしいです。

「これにより、アルゴリズムの線量報告のスタイルに基づき、(a)ボクセル内の実際の物質とは無関係に、すべてのボクセルで同じ物質(つまり水)に対する線量として報告するものと、(b)各ボクセルで実際の物質に対する線量として報告するものの2種類に効果的に分類することができます。」

線量計算の概要

私にはちょっと難しい。とりあえず、先に進みます。

このレポートの使用方法

では、我々はどうしたらよいのかという問いに、「このレポートの使用方法」は答えてます。

「表1は、最新の調査を通じてベンダーから収集された情報を示しています。・・・現在市販されている主要な線量計算アルゴリズムがこのレポートに含まれています。」

このレポートの使用方法

表1に示してあるのか、ふむふむ。私の勤めている病院の放射線治療装置は、光子線はAAA(リニアック)とレイトレーシングとモンテカルロ(サイバーナイフ)、電子線はモンテカルロです。

「アルゴリズムは本質的に水から組織へのマッピングを行わないため、このステップは、TPS に「筋肉への線量」として校正基準線量を数値的に入力することによって手動で行う必要があります。この手動変換により、患者の大部分の軟組織に対するおおよその組織線量が報告されます。」

このレポートの使用方法

AAAとレイトレーシングの対応はこれですね。

「b 材料ルックアップテーブルは、空気、組織、骨で構成されています。この作品での線量計算では、アルゴリズムが組織への線量を報告していることが示されている。」

表1

サイバーナイフのモンテカルロは手動で行なわなくてよい、ですね。

「j 理論的には”線量-中位”であっても、CT番号と材料の割り当てテーブルが非常に粗く(肺-水-ルーサイト)、密度が1.0に近い組織はすべて実質的に水として扱われます。」

表1

電子線のモンテカルロは、補正係数0.99を掛けないといけないんですね。

RECOMMENDATIONS

このレポートは、具体的な運用のやり方を提案してくれました。私が理解できたことだけ記述しますね。

リニアックの線量校正は、”水 対 水”で行う。表1から補正係数を選び線量補正を行う。アルゴリズムが変更、または新しいアルゴリズムになった場合、そのアルゴリズムに対し独立検証を行う、補正係数が変更される場合すべての関係者が完全に理解・文書化されなければならない、TPS のメーカーは、アルゴリズムを進化させ、”手動補正が不要”になることが望まれる。

これからの課題

”水 vs 軟組織”の問題は、モンテカルロ等の高精度な線量計算が一般的になった場合まで続くかなと思います。それまでの間、AAPM Task Group 329を参考にして物理士として意見をまとめておかなくてはと思っています。もし、リニアックの更新とかアルコリズム等の変更があった場合、メーカーさん、他施設、学者さんとかに相談しようと思います。


May 16, 2023

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