刑事被告人のすゝめ#002

 今回は逮捕について書いていきます。

逮捕はたいてい突然の出来事です。

【あ、自分は明日ぐらいに捕まるな、、】

と、思って逮捕される人はそうそういません。
なので、突然逮捕されると動揺するし、
仕事どうしよう、、とか
家族になんと説明すれば、、とか
この先どうなるんだろう、、といった
不安や焦燥感が引きも切りません。
ましてや、それが冤罪だったとしたら
なおのことです。
警察は、そういった不安や焦燥感に
つけ込み自白を迫ってきます。
彼らには厳しいノルマが課せられており
それを達成するためには多少強引なことも
平気でやってのけます。
近年、取り調べの可視化がある程度
進んできたとはいえ、重大事件や
精神疾患を抱えた被疑者など一部を除く
大多数の一般事件ではまだまだ旧態依然とした
密室での厳しい取り調べがなされている
というのが現実で、私の認識もそうです。
少し昔の著書ですが、取り調べの際の
ビデオ撮影について(いわゆる録録)、
警察組織は、
(録音録画をすれば)被疑者との友好関係
あるいは信頼関係を構築することが出来ず、
カメラが入ることで被疑者が緊張してしまい
被疑者が真実を話そうとしているのにそれが
妨げられてしまう。その結果として、
真実をありのままに書いた供述調書(自白調書)
が作れないから、カメラは入れられない。
みたいなことが書かれているものもあります。
今となってはそんなことは有り得ないと
大多数の方は認知しているものの、
実際に逮捕されてほとんどパニック状態に
陥っている被疑者が警察の口車に乗らず、
適切な対応をすることは極めて困難です。

よくあるフレーズとして、取り調べ刑事が

「俺の言う通りにしておいた方が得だ」

的なことを言いますが警察の言う通りにして
罪が軽くなったり事態が好転することは
ほぼ無いと言ってもいいと思います。
おすすめはしませんが例外として、
初犯で、痴漢などの軽微な事件においては
認めれば即日釈放となる場合もあるし、
逆に認めなければ3週間近く身柄の拘束が
続くことにもなります。勤め人ならば、
それだけ会社を欠勤すれば事情も伝わるし、
クビになる可能性だって出てきます。
もちろん、警察もそういった事情を把握
したうえで、認めないと帰れないよ?という風に
自白をすすめてきます。

そこに乗るか反るかは御本人次第ですが、
(なにを優先とするかは個人によるので)
一つだけ言えるのは、警察の言う通りにして
まずいい事は起こりません。

さて、逮捕されるとまずは留置場に
入ることになります。入る前に所持品及び
身体検査が行われ、終われば居室に入ります。
基本的に初日は取り調べが無い場合が多いです。
あっても、被疑事実(逮捕状記載の事実)に
間違いがあるか、認めるか否認するかの
確認をされるぐらいです。
この時点で考えることは、いつ出れるん
だろう、、この先どういう風に手続きが
進んでいくんだろう、、ぐらいの何とも
漠然としたことしか考えられないと思います。
一般論として逮捕されてからの手続は、
まず逮捕されてからの警察の持ち時間は
逮捕状を執行してから48時間以内に、
検察官に身柄を送るかどうか判断します。
検察官に身柄を送るまでもないな、という
事件なら警察の判断で身柄を釈放することも
あります。
身柄を検察に送ることになれば
検察に送致します。
(よくニュースとかで送検とか耳にすることがありますが検察庁に送致することを指しています)
検察に身柄が移れば、今度は24時間以内に
検察官が被疑者の身柄を勾留するかどうか
判断することになります。勾留する必要性が
あれば検察官は裁判所に勾留請求を行います。
あくまでも裁判所が決定するので、100%では
ないですがおよそ97%の被疑者が勾留決定と
いう統計が出ています。
近年、捜査のあり方や施設内での人権侵害が
批難されつつある傾向にあるからなのか、
取り調べ段階の身柄の早期釈放に向けて
尽力する弁護士さんも多い印象です。

ここまで合わせて72時間(計3日間)の間の
動きとしては地域にもよりますが、
逮捕から遅くとも2日目には検察庁に
行って検事調べが行われ、そこで検察官が
勾留請求するかどうか決めます。
そして3日目ぐらいに次は勾留の可否を
判断するために裁判所に行きます。
そこでは裁判官に被疑事実を認めるか否か
ということだけが聞かれ、否認すればほぼ
間違いなく勾留されると思っていて下さい。
勾留が決定されれば最大20日間被疑者
の身柄を留置場に入れておくことができます。
その間、捜査刑事による取り調べ及び
検事調べが行われ、勾留満期
(逮捕から23日)以内に被疑事実に
ついて公訴提起(起訴)するか、
不起訴にするか検察官が判断します。
ここで大切なのは、被疑事実に誤りがなく、
罪を全面的に認める場合であっても、
【余計な調書は一切作らないこと】です。
刑事や検察官は作文のプロなので、
知らず知らずの内に事実関係が歪曲
されてしまうこともよくあること。
なので、少なくとも証拠が開示される
までは完全黙秘が刑事裁判の基本です。
被疑者、被告人には黙秘権が保障されて
いるので黙秘することは固有の権利であり、
行使することによっていかなる不利益も
被りません。

少し順番が前後しますが、逮捕されれば
すぐに留置管理官に【当番弁護士】を
呼んでもらいましょう。
 日頃からお付き合いのある弁護士さんが
いればその人を呼べばいいですが、
普通に生きていて弁護士さんをすぐに
呼べる状態にある人もそういないと
思います。当番弁護士を呼ぶと、
早ければその日の内に弁護士会から
弁護士が派遣されてきます。その際、
被疑事実と自分の認識を冷静に伝えて、
なるべく具体的なアドバイスをもらいましょう。
とはいえ、当番弁護士が刑事弁護に
精通しているかも分からない上に、
専門知識を有する弁護士といえども
被疑事実を聴取しただけでは中々
先の見通しを立てる事も難しいです。
証拠を見て、事実関係を把握し、
証拠構造や後の立証構造を予見して、
具体的な弁護方針を固めなければ、
真に有益な弁護は出来ません。
だから、先述したように、特に否認事件や
余罪が複数ある事件などは完全黙秘が
鉄則になります。

当番弁護士と接見して、その弁護士を
【私選弁護人】として選任するか、
【国選弁護人】として選任するのかを
選ぶことになりますが、この際に留意しなければ
ならないことはその弁護人になろうとする
弁護士が【刑事弁護に強いかどうか】を
しっかりと確認することです。
ただ、国選の場合はどの弁護士が弁護人と
なってくれるのかは運としか言いようが
ないので、本記事は私選のことを書きます。

私の経験上、刑事弁護に強い、というか
熱心に刑事弁護をしてくれる弁護士は
非常に少ないという印象です。
しかし、弁護士としては被疑者あるいは被告人、
若しくはその関係者等から相談されれば
本当は自信も経験もそんなにないのに
【出来る】と言う人が多いです。

具体的に言えば、個人名は出しませんが
袴田事件弁護団の副代表の某弁護士は、
相談した段階では自信満々で【出来ます】と
言っていたものの、【何が出来るのか】
という具体的な弁護方針や見立ては
一切答えず、かといって接見にも来ず、
連絡もとれない、訴訟記録に目を通して
すらいない、、おまけに外部の人に聞くと
呑気にインスタグラムで下手くそな歌を
配信していたりと悲惨の一言でした。
言うまでもなく、その弁護士は問答無用で
解任しましたが、全部が全部ではないにせよ、
こうした名前だけ売れてて実力が伴わない
弁護士が多いのもまた事実です。
そもそも、一般的な刑事事件で高額な
弁護士費用を払って強い弁護士を就ける
必要性のある事件は数えるほどしかありません。
 大きな理由としては、この罪ならこれぐらいの
量刑、というような【量刑相場】というものが
あり、裁判所は大体それに沿うような
量刑を判決で言い渡します。
あまりにも量刑相場を逸脱すれば上訴されて
原審破棄となる可能性もあるし、そうすれば
一審裁判官のミスということになるので、
裁判官の経歴にキズがつき、査定に響きます。
司法官僚である彼らも所詮は一人の人間。
組織の中で評価されたいし出世して
高い給料が欲しい、それが人情です。
だから、内心どう思うかはさておき、
大体無難な判決を出すことが殆どです。
したがって、量刑相場からだいたい
プラマイ3月〜6月というところなので、

【弁護人が頑張ろうが頑張らまいが
結論はだいたい最初から決まっています】

ただ、無罪を争うような事件は
それなりに刑事弁護に精通している
弁護士さんを就けるのが望ましいです。
今は刑事弁護に特化した公設事務所も
ありますので、個人事務所よりも
割安で質の高い弁護を受けることが
期待できます。
弁護士に心当たりがなく、私選を就ける
場合には当該弁護士の氏名や事務所などを
ネットで検索してみて下さい。
傾向として、その弁護士の得意分野のことは
具体的に書いているので、例えば企業法務に
ついて詳しく書いているのに、刑事事件に
ついては単に【刑事事件】としか書いてない
ような場合はその弁護士は刑事弁護に
弱いと思って良いと思います。
逆に、刑事事件の取り扱い事例などを
詳述している弁護士などはそれなりに
力のある弁護士だと思います。
ただ、先述したように多くの事件は
起訴された段階でほぼ結論が決まっているので
高い弁護士費用を払う必要性があるかどうかは
よくお考えになられた方が良いかと思います。
東京地方(高等)裁判所に事件が係属していて、
弁護士を紹介して欲しいという方はコメント等
頂ければ対応させて頂きます。

次は留置場の生活について書きます。

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