ミズナラ材の樽で熟成したウイスキーはおいしいのか?

ウイスキーの品質の大半は樽熟成によって決まるわけですが,そこで使われる理想的な樽材は,オーク材,つまりはナラの木ということになっています.主に米国や欧州大陸で育ったナラ材が使われますが,日本に育つナラとしては『ミズナラ』という種類の木があり,そのミズナラ材の樽による熟成が日本のウイスキーの独自性だと言う意見もあります.そこでちょっと調べてみました.

専門的にはミズナラにも細かい種別があるようですが,ほぼ同じものが中国にも広く分布しているようです.決して日本独自の木材ではないわけですね.また,細胞の並びが整いすぎているために,液体が素通りしやすいという,酒類の容器としての致命的な弱点もあるようです.日本のある蒸留所で,ミズナラ製の発酵槽からボタボタと液漏れしているのを見たことがあります.

さて,ミズナラ樽で熟成されたウイスキーは,どう評価されるものでしょうか.良い香りだという人もいます.すでにいくつかのスコットランドの蒸留所が,熟成の後期にミズナラ樽に詰め替えて仕上げたモルトウイスキーを発売しています.ブレンデッドウイスキーでは,国際的な有名ブランドがミズナラ仕上げという商品を,日本限定で販売しています.ただ,これが国際的に通じるものなら,もっと広く世界で販売され,ヒット商品になっているはずです.もっとも,何か規程の甘い日本でないとウイスキーとして販売できない事情があるのかもしれません.
本当に樽材として魅力的であるなら,以前から中国や日本のミズナラ材はスコットランドなどに輸入されて広く使われていたことでしょう.日本の蒸留所は樽を輸入せずに国産材を多用してきたはずです.あまり使われてこなかったのは,液漏れの問題だけでなく,あまり質の良いウイスキーができないからではないかと考えてしまいます.

ミズナラ樽で熟成したウイスキーには独特の香りが付きます.白檀香などと表されますが,白檀というのは主にお線香の原料となる香木ですね.

ある匂いを好ましく感じるか不快に感じるかは,様々な要因に左右されるようです.例えば,匂いの量によっても印象が変わります.臭気判定士の試験でも使われるスカトールという成分は,糞便やオナラの匂いとして嫌われます.しかし,花の香りにも含まれていて,微量であれば甘く魅惑的な香りと感じられるようです.ですから,器用な人はオナラをする時に少しずつ小出しにすれば,逆に魅力的な人だと思われるかもしれませんね.ミズナラ樽の香りも,量によって印象が変わるのかもしれません.

個人の後天的な影響も大きく,幼少期にある匂いを「クサい!」と教えられると,その臭いを忌み嫌うように学習するそうです.文化的な違いも関係が大きく,例えば日本人と欧州人とでは,納豆とアニスの匂いには明確な嗜好の違いが出るようです.
わたしは子供の頃は白檀香,つまりお線香の匂いは変な匂いだと思っていました.今では,やや良い香りだと思えます.ただ,わたしにとってはお葬式やお墓参りの匂いですから,少なくとも幸福感は感じないのです.飲食物として口に入れたい香りではなく,お線香の香るレストランで食事をしたいとは思いません.お仏壇のある家で育った人ならそうした抵抗はないのかもしれません.
外国の人にとってはどうでしょうか.宗教にもよるのでしょうが,概ね東アジアの人を除いて,馴染みの無い特殊な匂いということになるでしょう.

わたし自身は,少し前にスコットランドのアイラ島を訪ねて,現地のウイスキーをいろいろ飲ませていただいたことがあります.ラフロイグ蒸留所のウイスキーは,クレオソート臭で有名です.これも好き嫌いが分かれるようですが,木クレオソートは『正露丸』の主原料ですから,日本人でもあの薬を飲んだ体験によって異なるかもしれませんね.
夜には,バーでボウモア蒸留所のミズナラ樽フィニッシュを飲みました.その時にふと気付きました.「ん…,このミズナラ香は,やっぱり邪魔なんじゃないか…?」 アイラ島という本場の環境がそう感じさせたのかもしれませんが,個人的にはあまり好ましくない香りだと感じるようです.

結局のところ,ミズナラ樽の香りは好みが分かれるでしょう.国際的な大手飲料会社が中国に蒸留所を設けていますから,今後は中国産のミズナラ樽が使われていく可能性はありますが,国際的に広く好意的に受け入れられる香りかどうかは,ま,わからないと思います.
(ひろかべ)


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