日本代表、大谷翔平という不可侵の権力あるいはSports Washing最強のツール

 2023年6月のこと。
 東日本大震災被災地岩手県釜石市在住、大津波により全財産を失った知人が肩を落とし、力なくつぶやいた。
 「キクチユーセイとかいう野球選手が億単位の給料貰っていると聞いて驚いたら、オータニショーヘイという選手はその何倍も貰っているそうだ。俺は食べるのがやっとの生活なのに、野球が上手いだけで、何億、何十億も貰えるなんて世の中間違っている」
 同感である。プロスポーツのスターに応分の報酬を支払うことは妥当性を持つ。それにしても彼らの年俸は高すぎる。法外というより反社会的ですらある。無論、球団のオーナー企業が支払うわけだが、社会の階層化を一層推し進め、庶民から活力を奪うことになろう。事実上、AthleteがCitizenの上に立ち、階層社会の特権階級とみなされる。彼らの下層に位置する私たちは、「価値が低い」と決めつけられたようなものである。
 オータニショーヘイ、すなわち大谷翔平が、ロサンゼルス・ドジャースと巨額契約を結んだ。総額7億USドル。約1,015億円という。津波被災者である件の知人は、一層落ち込むことであろう。そのような人々は、日本国内に多数存在する。しかし、彼らに発言権はない。メディアが低所得層、下層階級に寄り添うことなど考え難い。それは、自分たちが祭り上げた不可侵の権力を批判することになるからだ。大谷翔平報道は常に驚愕と称賛で彩られる。その「驚愕称賛報道」によって、覆い隠される不都合な問題が多々あることを、国民は察知できない。
 大谷のみならずスポーツの祝祭性は、政治や社会の不都合な問題を洗い流し、隠匿する効果を持つ。名づけてSports Washing。メディアはもとより、権力者もその効果を熟知している。大谷翔平は、不可侵の権力者であるとともに、Sports Washing最強のツールである。
 複数大学で行ったメディア・リテラシー関連授業の講義ノートを基に、問題の深層を論考する。

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