大勢の人を前にしたスピーチ
大勢の人を前にして話をする時には、全体の人を対象と考えるのではなく、誰か特定の人と話している気持ちで行うと、気分が落ち着いて間の取り方もうまくできます。
『つかみ』
情報が貴重だった時代にはどんな情報に対してもじっくり理解しようとしました。しかし、情報が氾濫する現代では必要な情報とそうでない情報をみんなが峻別するようになってきました。
洪水のような情報の渦に溺れないように受け入れるか受け入れないか、最初の15秒程の間、神経を集中して判断します。その結果必要ないと判断したものは脳が自動的にシャットダウンしてしまいます。つまり、その後に続く話の内容については聞かれていないという事です。
話芸だけで人の心を掴むのはごく一部の天才を除いては無理です。実は相手が聞いてくれるかどうかは話す前の準備段階で決まっています。これから会おうとする相手の事を分析し、その人が知りたいけれどまだ知らないような情報、しかも15秒、せめて一分で話が完結する情報を見つける事ができるかどうかに成功はかかっています。
健康情報でも、スポーツでも、手相でも、地理や歴史情報でも構いません。自分の強みで相手が何を知りたがっているのか、それを把握する事が話を聞いてもらうには重要です。自分の持ち味を生かした話を少なくとも一つは用意するようにしましょう。
『間』
スピーチの出来栄えは会場の空気や聴衆の反応といかにキャッチボールをして話していくかによって決まります。まず、暗記した原稿を完全に再現しようとするとそもそもキャッチボールは成立しません。アドルフ・ヒットラーは間の取り方が天才的に上手だったそうです。
人間の脳は話すよりも聞く方がはるかに複雑な処理をしなければならないので、話し手よりも聞き手の脳に負担がかかります。日常会話では相手の表情、反応を見ながら『自分が話している内容を理解しているかな』『この話はどうも食いつきが悪いな』『これはうけてるな』などを無意識のうちに感じ取りながら、話の中身を調整しています。これが話のキャッチボール正体です。
人間は複雑な話をする時、自然に適切な『間』を取っています。聞き手が少し考え込んで内容を整理しながら聞いていると、話し手は無意識のうちにそれを感じ取り必要に応じて、センテンスの間にポーズを置くのです。そのお陰で聞き手は考える時間を自然にとる事ができます。
覚えた事を再現しようとすると、こうした間合いが消え、文と文の間が、同じになってしまいます。丸暗記をせずに自分の言葉で話し、『間』を味方につけましょう。
『オチ』
そろそろ話を締めくくりたいと思いながら上手く結論に持って行けなくて、尻切れトンボになったり、逆に何度も同じ話を繰り返したり、苦し紛れになかなか話が終われなくなる事もあります。
話は最後が肝心です。それまでの話を生かすも殺すも、終わり方次第です。ピリッと締まった終わり方ができれば、話全体が引き締まります。強い感動や余韻を残せるのも最後が印象深い内容や言葉で締められているからです。
落語でもオチが面白くないと、噺の味わいは半減されます。『以上、○○○と△△△の2点についてお話ししました』のように要点を項目にまとめて最後に念を押すという方法もありますし、最も伝えたかった自分の考えや気持ちを一言で言い表せるような言葉を用意して、話を締めくくる手もあります。祝辞等の場合には『最後に私の好きな言葉を一つ、…』なんかもいい。
慣れないうちはこの最後の部分だけ原稿にしておくのもいい。最後に使う印象深い言葉や表現をメモしておくだけでも役立ちます。それまでの話がどんなふうに展開しても最後はそこに引き戻して終われるような締めくくりの話と言葉が用意されていれば安心です。
急に指名された時は、じっくり考えてから発言する余裕が無いので、喋りながら話をどこへもっていって、どう終わるかを考える事が大事です。どうしても上手く収拾できない時は『とりとめのない話になってしまいましたが…』『繰り返しになりますが』と断って要点をまとめ直すと何とか収まります。そして最後に『ご清聴ありがとうございました』で終わる。
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