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オベリスクとクラフトマンシップ

オベリスク

1980年代の後半にサウジアラビアの3ケ月滞在ビザ入手の為エジプトのカイロに1週間滞在した事がある。当時のカイロ所長の勧めもあり、アッパーエジプトに2泊3日の個人旅行に行った。

アッパーエジプトとはスーダン国境の近くでルクソール、アブシンベルやツタンカーメンで有名な王家の谷などがある地域だ。カイロのギザのピラミッドやスフィンクスと併せ5000年も前に今のような重機もなしに建造された石造りの建物が数多くある。建物の壮大さとスケールの大きさは見るだけで圧巻だ。

ルクソールに行く途中で有名なオベリスクが刻まれ、磨かれたという石切場を見学した。あの世界的に知られた彫刻はこの花崗岩の採石場から切り出されたのだそうだ。あの大きなオベリスクの一つひとつが花崗岩の一つの塊から手作業で彫刻されたと思うとその作業量と精密さに感慨無量だった。

残念なことにオベリスクは世界各地に分散してしまった。あるものはロンドンへ、またあるものはパリへ、私はローマやイスタンブールでも見た。まだいくつかはエジプトに残っているが、最大のものは今もあの花崗岩採掘場に横たわっている。

当時のエジプト人は何十年も掛けて岩を切り取り、のみで彫刻を施し、やすりをかけて磨き上げた。42メートルの高さがあるそのオベリスクが放置されたままになっているのはなぜだろう? 

それは、いざ移動させる段階になって、花崗岩に一度見ただけではほとんど分からないような小さな傷があるのを専門家たちが発見したからだそうだ。傷のある製品を飾るわけにはいかないと、そのオベリスクは欠陥品として廃棄されることになったらしい。今、木工を趣味にしている私にはその気持ちはある程度は分かるが、当時修復技術がなかったのは気の毒だ。

クラフトマンシップ

この話とは対照的に仕事でイランのテヘランで現地パートナーのお宅に招待された時、食事の後の雑談時に質問された。『クラフトマンシップの意味が分かるか?』『今のイランにはその文化が無い』と窓のカーテンを指して『例えば、あのカーテン留めの金具の高さが左右で違っている。使用上は問題ないかも知れないが、そのままで仕事を終えた職人にはクラフトマンシップがない』と言われた。

確かに彼の仕事はラックやコンソールの卓内配線を見てもどこも無駄がなく整然としていて日本人の技術者に通じるものがある。聞くところによると日本人の仏師は仏像を作る時に普通は見る事が出来ない仏像の足の裏まで丁寧に彫るらしい。それによってやっと仏像に魂が入ると言われている。当時のエジプト人の物作り文化レベルの高さに感心した事と彫刻に限らずどんな仕事にも魂を入れて取り組むべきと思った。

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