見出し画像

『新版、美/学』

酒井紀幸、山本恵子著『新版、美/学』(大学教育出版)という教科書みたいな本を読みました。たぶんこれ、学部の一年生用の本ですかね。でも僕には、基本的な事柄が簡潔にまとめられていて、大変参考になりました。参考文献リストがありがたいです。美学は芸術哲学なので、美学の歴史は、哲学の歴史の中の美に関する項目の変遷というところでしょうか。

第一部が『美の思想』という章で、いわゆる哲学者、美学者とその思想を紹介しています。第二部の『美の広がり』の章は、近代以降の美が現象となった事例をピックアップしています。美術関係のトピックの、ドイツ表現主義、ダダ、シュールレアリズム、退廃芸術、などはこちらに入っています。映画、デザイン、ポストモダン、カワイイ、テレビゲームなどと一緒です。つまりこれは、美学にとって美術は一つの現象に過ぎないと言うことでしょう。

面白かったのは、社会学者のブリデューが調査したディスタンクシオン(卓越化、差異化)という項目です(業界では有名なのでしょうか)。それは、上流階級、中間階級、庶民階級にそれぞれ『最初の聖体拝領』と『木の皮』の写真を見せて、どちらが美しいかを調べたものです。すると学歴が高い方が圧倒的に『木の皮』を選び、学歴が低い方が『最初の聖体拝領』を選びました。つまり『木の皮』を美しい被写体と受容するには、より高度な理解が必要なので、通俗的な価値判断から遠いということでしょう(確かにポートレートで顔をグチャグチャっと描く絵が世の中にあふれかえっていますが、これなどはやられ過ぎていて逆に通俗化しています)。要はそれがわかる私であることで、自らを卓越化する操作でしょうか。

僕の意見は、通俗と難解なものの両方を含んだ両義的なもの、つまり矛盾を抱えていないものは面白くないというところです。さらに通俗的な矛盾というのもあるのでややこしい。そして、それは時代や文化の背景によっても変わるものなので、そこに普遍性を加味しなければならない。作品を作るって、簡単ではないですよねぇ…。

#アートの思考過程


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?