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感想『ブルーピリオド』

数日前に、『ブルーピリオド』を読んで、感想をFacebookに投稿したのですが、noteにも貼っとこ。えらそうに書いてますが、個人の意見です。


マンガの『ブルーピリオド』を、最新7巻まで読んでみました。

ざっくり言うと、ちょい不良だけど、要領が良くて集中力があるので成績は良い主人公が、たまたま美術室で見た美術部の作品に感動して絵を描き始め、たまたま進路志望の時期だったので東京藝大を目指すという、美術系スポ根マンガです。

この漫画の売りは、リアルな美大受験の描写です。藝大生が熱いレビュー動画をYouTubeに上げているところを見ると、バッチリ取材して描かれているようです。そして今年のマンガ大賞を受賞しました。だから、マンガとしての面白さは折り紙付きです。

さて、僕も大変面白く読んだので、この作品を描いてくれてありがとう、と言いたいのですが、感想を正直に書こうとすると、自然に辛口になります。何故でしょう。面白かったらそれでええやん。もちろん、作品はまだ完結していないので、今後の展開次第で、全て覆る可能性はあります。ネタバレになりますが、6巻までが受験編です。では、7巻以降は?……。

7巻以降は藝大編です。つまり、主人公は現役で合格しました。高2まで美術に何の興味も無かったのに、短期間で、恐るべき集中力と要領を発揮して合格しました。その過程がこのマンガの面白さです。それを、説得力を持って描くのはすごい力量ですよね。ちなみに村上隆さんは、自分の体験を思い出して、読んで涙したとツイートしていました。

さて、僕はこんな受験を経験していないので(もっと牧歌的でした)、これを読んでも当事者意識は芽生えません。その上で言えば、これは単なる大学受験の話です。基本的に主人公にライバルはいません。ライバルになりそうなキャラも、早々に仲間になります。だから、主人公の敵は自分自身です。基本、自問自答し、先生にヒントをもらい、最後は自分で答えを見つけ出す、これの繰り返しです。記号的に過不足なく配置された脇のキャラはいますが、基本は、自分、先生、その他の人間関係で成り立っています。なぜなら、描きたいのは過酷な美大受験なので、他のものは不要なのです。作者は受験は3巻ぐらいで終わらせようと思っていたと書いているので、それでも倍かかっています。だから、主人公が全く恋愛をしない、珍しい青春ものになっています。まさにスポ根です。

6巻までが受験編なので、受験のテクニックの話です。要は何千人の希望者を何十人に選抜する話ですから、言葉を選ばずに言えば、中身は空っぽです。でも、その理不尽に立ち向かう、生身の人間の話なので、不思議な感動が生まれます。だから、ライバルも仲間に成らざるを得ません。しかし、敵がいないと葛藤は生まれません。葛藤がないと面白さはありません。そこで、使われているのは、自分の無知と体調不良です。自分の無知と戦い、受験のプレッシャーからくる体調不良と戦い、ついには、合格を勝ち取ります(ドラマの弱さを絵で補っているので、歌舞伎の見得を切るみたいなコマが多いです)。

問題は、この作品が今後、どこまで描くかです。受験で終わるのもアリだったと思いますが、7巻では東京藝大生の生態を描き始めています。6巻までは受験の理不尽さでしたが、7巻からは、美術教育の理不尽さに対峙します、たぶん。卒業後も続いたら、美術業界の理不尽さと戦うのでしょうか。

作者の意図かどうかわかりませんが、描かれていることだけから言うと、高2まで美術に関心がなかった設定は、主人公が読者と同じ目線で、受験の様々な出来事を体験する手法ですよね。なぜデッサンが重要か、と言うことを主人公が学ぶ姿を見て、読者も一緒に理解する。合理的です。しかし、ことが美術というか、芸術に関しては、高2で目覚めるのは遅すぎません? その後も、受験のスキルを磨くことに費やされ、大学に入ってもどうやらスキル合戦の様相が。まあ、まだ学部一年生とは言え。

ただ、この主人公が将来すごいアーティストになることを想定しているのであれば、どこかでこの理不尽な美術村から、はみ出すか、飛び出す時が来るはずです。それをちゃんと描けば、リアルな美術の世界にも変化が起こるのではないかと思います。海外の一流サッカー選手は、子供の頃にキャプテン翼にあこがれたという話はよく聞きます。でも、それは、作者が、この物語のラストをどう想定しているかにかかっています。この感想文を書こうと思ったのは、このマンガが現時点で、美術界のキャプテン翼になる可能性を持っているからです。たぶん美大生は、限りなく100%近く、このマンガを読んでますよね? もしまだ、読んでない方がいれば、おすすめです!

そんなに辛口でもなかったな……。

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