見出し画像

日経「出向という選択肢」

日経COMEMOで募集しているこのタイトル。私ほど適している人間はいないのでは?と勝手に燃えました。

オプト(デジタルホールディングス)時代に自ら出向 2008−2010年
ソフトバンクと合弁会社を設立し社員を出向させる 2014−2021年

私自身出向を経験していますし、大きな出向による事業提携を仕掛けました。会社としての成功と失敗はいろんな見方が分かれるのでここでは書きません。会社に関しては客観的な事実を記載することに努めます。

私や社員におきたことは主観的に書きます。

出向背景 電通がオプトに35%出資し電通に出向

2007年12月のことでした。電通がオプト(現デジタルホールディングス)にTOBを仕掛け出資比率を35%に。オプトの経営陣も賛同し、友好的な提携スタートでした。その証としてオプト→電通に大量の出向社員が行きます。その一人が私でした。電通側の公式リリースから一部抜粋します。

当時伝統的な広告会社がデジタル専業と提携したり、買収したり、というのは大きな流れでしたので、電通がついに動いた!ということで大きな話題になりました。

電通はオプトから平成20年10月までに50人程度出向を受け入れる予定です。これらの人材交流を通じ、両者が保有する経営資源を相互に有効活用してまいります。

出向経験 劇的に変わったビジネスキャリア

2007年12月当時私は名古屋営業所長として名古屋にいました。年末の出張で東京に来た時、このプレスリリースを見せられて

「オプトから50人出向させることになった。その現場責任者として電通に行ってきてほしい」

これを私に告げたのは当時の上司であり1番の恩師だっただけに断る選択肢はありませんでしたが、かなり苦渋の決断だったことを覚えています。率直に言って行きたくありませんでした。

当時の仲間の多くは大企業が嫌でベンチャーに来たメンバーが多かったんです。ネット広告の世界では打倒電通を掲げてやっているメンバーも多かったことでしょう。

営業マンとして毎日クライアントのことだけを考えていれば良かった日々は終わりを告げ、大企業の中で出向元と出向先の思惑に挟まれ苦悩する日々が始まりました。

出向経験 出向により得たもの「局面打開力」

完全に頭の中身が入れ替わってしまった、と感じるほど大きな影響がありました。出向により得たものは計り知れないのですが、一つだけ挙げるとすれば「煮詰まった状況を打破するには局面打開力が必要」でしょうか

事業パートナーへの在籍型出向(つまりいつかは戻る)で必ず悩むのはやはり利害の不一致が起きうる時。できるだけそれを現場の社員に感じさせるべきではないのですが、どうしても起きてしまいます。

業務委託による常駐ではなく、社員として出向するため、私は100%割り切って出向先の利益のために働くべきだと思っています。利害が一致しないケースに出くわしたらそれは制度設計した人が悪い、と割り切るべきだと思います。

現場の判断としてはそれでいいのですが、現場にいない経営陣が交渉する際に、利害が一致しないケースで煮詰まってしまうことありますよね。お互いに譲るしか交渉がまとまらない、と思われるケース。

これを双方少しずつ譲る、という日本的な解決策をしてもいいのですが、強烈な局面打開力があった方がまとまりやすい。例えるなら江戸無血開城の際に勝海舟が「江戸を火の海にする準備」「東海道を下る官軍に砲撃準備」をしていたような強烈なパワーです。

これがあったからこそ全面攻撃ができなかったわけです。勝海舟の顔を立てただけじゃないですよね。

出向という制度 提携の解消

私自身の出向は2008年から2010年までの2年で終わりました。その間半年に大体25人ずつ2年後には100名ほど迎え入れた、と思います。その後私はほとんど関わらなくなりましたが、2013年に業務提携を解消、2017年に資本提携まで含めて解消します。

出向という制度 会社にとってメリットがあったのか、なかったのか。

解消したくらいなので、メリットなかった、ということなんでしょうけど、株価から見ると確かにそのようです。

デジタルホールディングスの株価。2008年ごろから長期低迷に入ります。2017年ごろから上昇基調でしょうか。純粋に出向だけを切り取ることはできませんが、出資を伴うものだったので、株価や需給という点から見れば売り圧力になってしまった、ということですね。

スクリーンショット 2021-12-20 10.09.18

電通の株価。これまた2013年ごろまで低迷、その後少々、下降を繰り返します。電通の場合他の要素も大きいのでこれだけじゃないとは思いますが。

スクリーンショット 2021-12-20 10.10.03

出向という制度 社員にとってのメリット

私を含めて行ったメンバーは「個人のキャリア」としてみればほぼ全員プラスだったのではないでしょうか。出向期間を終えて戻り出世する(私もその一人です)、転職する、など活発に動いた印象があります。

私はその後2010年に戻って2011年に執行役員、そこからは子会社の買収やその子会社の社長をやる、などサラリーマンとしてはかなり大きな権限で仕事をさせてもらえたので間違いなくプラスでした。多分そのままずっと同じ仕事をしているよりも良かったのではないでしょうか。

プロパーとして純粋培養されるよりも、視野が広がり、交渉や引き出しなど個別の武器が増えたというのは実感しています。多分他のみんなも同じようなことを言っている気がします。

出向という選択肢 経営者としてソフトバンクと提携

電通との資本業務提携に伴う出向、そしてその後の解消という歴史をど真ん中にいて感じていたことは「もっと上手くやれたのに」ということです。社員の能力向上にはとてもメリットがありましたが、協業としては解消してしまいました。

会社にも双方メリットがあり、個人もそのメリットを享受できる仕組みが作れないか、とずっと考えていた私はもう一度チャレンジします。今度は経営者側として制度設計まで自分でやりました。ソフトバンクとの協業であるジェネレイトの設立です。

2014年に作ってつい先日2021年8月に解消しました。全事業はソフトバンクの中に取り込まれました。 

出向とはなんなのか

今まで見てきたように会社にとって出向というのは双方とても難しいものです。ただし、どちらのケースも社員のキャリアにとっては良かった、と思っています。純粋に社内だけで育っていたら埋没していたような個性が輝いているのを見てきました。そこだけは救いかもしれない。

会社にとっても株価や提携解消している、という事実だけをみればネガティブに見えることもありますが、元々の趣旨である「協業によって何を得たかったか」という観点で見るとマイナスだけじゃないはずです。

会社:出向を送る、受け入れることで何を得たいのか
個人:出向に行く、受け入れることで何を得たいのか

月並みですが、経営にとっては総合的な判断。個人にとってはポジティブしかないと思います。

#日経COMEMO  #出向という選択肢



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?